日本航空の経営再建問題

日本航空の再建は国交相直属のチームで

 日航が今年度中に必要とされる資金調達額は2500億円規模に達し、このうち1500億円程度を11月末までに用意する必要があるが、銀行は融資に消極的で、資金のめどが立っていない。9月15日に開催された国土交通省主催の有識者会議第2回会合で、日航は次のような経営改善計画を提出した。

  • 平成23年度までの3年間で6800人のグループ従業員の削減し、474億円を減らす(早期退職で2000人、自然減で2800人、契約社員500人を雇い止め、1500人を一時帰休させる)
  • 神戸、静岡など国内7空港、ローマなど海外9空港から撤退
  • 国内29路線、国外21路線を廃止
  • 退職給付金を1600億円減額する
  • 航空機を小型化して530億円のコスト削減

 しかし、銀行側から「内容が煮詰まっていない」「具体的な効果が見えてこない」といった厳しい意見が相次いだ。有識者会議は、経営学、企業再生、労働などの専門家6人で構成。

有識者懇談会は解消 JAL再生タスクフォースが発足

 第2回会合で日航が計画案の概要を示し、月末ごろに第3回会合を開いて最終的に了承するかどうかを決める段取りだった。ところが、前原国交相は、17日の就任会見で、「自民党政権で作られた仕組みだ」として会議を廃止する意向を表明、26日には、直属の特別チーム「JAL再生タスクフォース」を発足させた。同チームのメンバーは次の5人だ。企業再生のエースと言っていい布陣を揃えている。

  • 高木新二郎 元東京高裁部総括判事で、その後退官し弁護士に、07年3月に解散した産業再生機構で、産業再生委員長を務めていた。
  • 富山和彦 東京大学法学部在学中に司法試験合格するも、ボストンコンサルタントグループに入社、企業設立するもバブル崩壊後倒産の危機に遭う等の経験を経て、産業再生機構役員を勤めた。
  • 田作朋雄 長期信用銀行産業再生機構役員を経て、PwCアドバイザリー(世界的監査法人プライス・ウォーターハウス・クーパースのグループ企業)
  • 大西正一郎 奥野総合法律事務所パートナー弁護士を経て、03年に産業再生機構に入社し、マネージングディレクター就任。同社清算後フロンティア・マネジメント(株)を設立し、代表取締役に就任
  • 奥総一郎 みずほ銀行にてキャピタルマーケットやデット・エクイティ・スワップ等資本構成に関わる部分を中心に担当、95年BNPパリバ証券入社、06年レゾンキャピタルパートナーズ設立に加わり、専務執行役員に就任
今後の日航

 前原国交相は、24日に日航の社長と会談した後、日航提示の再建案について「努力は見られるが、時間軸と計画の実現性に納得できなかった」「あくまで自立再生をやってもらう」との見解を明らかにしていた。リストラを前倒しで進めて行くのなら再生の方向で政府も協力するが(産活法の適用)、それができないが破たんしかない、という強い姿勢で臨むことが予測される。
 他方、前原国交相は、その後の記者会見で、「もちろんJALの体質改善もしていただかなければなりません。さまざまな問題を抱えている会社であるのは事実です。ただし、JALにすべて責任を押しつけていいのかということには、わたしはならないと思っていまして」、「限られた国土の中、地域が空港も、整備新幹線も、高速道路も欲しいということで、これまで公共事業がコントロールできなかった」として、日航の経営不振は政治の責任でもあるとの見解を示している。採算が取れる見込みのない地方空港が、時には住民の意向を押し切ってまで開港されたのは、政財官の凭れあいの縮図と言ってよく、日航国交省から次々と赤字路線を押し付けられ、経営を悪化させていた実態がある。早速、地元に空港を抱える各首長が陳情のため前原国交相との面会を求めている。しかし、前原国交相は、記者会見で、国が特別会計を使って地方空港を建設し、日航などに不採算路線でも飛ばすよう求めてきたことが、日航が経営不振に陥った1つの原因だと述べ、いわゆる空港特別会計を抜本的に見直していく方針を明らかにした。今後の無計画な空港建設をしないのはもちろんだが、既にある国内空港について、救済の手を差し伸べることは考えていないのではないか。
 政投銀は「日航の計画案は不十分で、公的資金投入はありえない」「優良資産を引き継ぐ新会社と赤字路線などを引き継ぐ旧会社に分割する新旧分離案」を考えているという。GMの清算手続を指向してのことと思われる。GMは、一旦法的に清算手続に入り(チャプターイレブン)、ブランドをシボレー、キャデラック、ビュイックといった比較的売れ行きがいいものと、ハマー、オペル、サターンといった売れ行きの落ちるものとに分け、前者を新設会社(新生GM)に譲渡し、後者のブランドをそのまま旧GMに残した上でバラ売りし、清算するといったスキームである。日航にもこのスキームをそのままあてはめることができるかどうかは疑問だ。日航の場合、採算不良路線を旧会社に残し、採算良好路線を新会社に移すことになるが、採算不良路線を引き受ける会社があるだろうか。採算路線を新会社に移すとして、その受け皿となる会社をGMみたいに国策会社として作るのか。

乱脈経営

 日本航空の経営不振では、従業員の高給の削減、年金負担の軽減も求められ、労働組合に対する風あたりが強いが、経営も乱脈を極めていた。

  1. 86年から96年のドル為替先物予約の失敗で、ドル高が182000億円の損失。相場の専門家が一致してドル安=円高の流れを予想していた時期に、日航経営陣は、ドル高を予測し、そのためドル買いを固定するような為替予約を入れたのである。ドル高、ドル安どちらにも柔軟に対応できる通貨オプション等を利用するというのが常識だが、ドル高への備えだけして、ドル安に変わった場合の備えをしないということは、ドル高に賭けたといわれても仕方がない無謀な行為であった。しかも、最長11年という長さで先物予約をしていたのである。このドル高に偏った一方的な為替先物予約は、財務省OBの役員が進めたもので、その御高説に逆らえる役員がいなかったのだろう。
  2. 海外でも、どんどんホテルを買い集め、その失敗で、395億円の損失。
  3. HSST事業という、畑違いの高速鉄道の開発に使った無駄な投資で、70億円以上の損失。
  4. 航空貨物の増加を見込み、貨物専用会社のJUST社を設立するが、採算がとれず、すぐに運行停止。
  5. ティーエアリンク社という、成田と都心を結ぶヘリコプター運行会社を作るが失敗し、20億円超の損失。
  6. 役員のためのゴルフ会員権の購入に40億円。(以上は「沈まない太陽」からの引用)
  7. 日航原油最高値ベースで、向こう2−3年間燃料油を買うオプション取引をし、原油が下がっても、高い燃料を買い続けており、過去の通貨為替先物予約の失敗を繰り返している。
  8. 子会社を200社以上作り、外注コストの削減ができない体質になっている。
  9. 航空機の購入に1000 億円規模の投資を続ける一方で、ジャンボ旅客機を何機も寝かせている
  10. 巨額の本社屋建設費

 人事でも、殿様商売が平然と行われている。

  1. 機長をすべて部長職にし、機長は国内に不在が多いため、機長国内不在時のための副部長職も作らなければならず、その上司の役職も作らなければならなくなり、役職者が急増した。
  2. 成田空港開港という時期に、毎年200名以上の大量雇用を行い、その後一転雇用を絞るという場当たり的な雇用をしたため、現在の従業員の年齢構成がキノコ型ともいうべき頭でっかちの状態になっており、現在キノコの笠部分が50代半ばで占められ、一人当たりの人件費が2000万円ほどかかっている。