米銀は本当に大丈夫か

バーナンキのいう「経済再生の芽ぶき」

 ベン・バーナンキFRB議長は、3月15日夜放送の米CBSテレビ「60ミニッツ」で、過去数十年で最悪となる米国の景気後退は年内に終結し、米経済は2010年にも活気を取り戻すと語った。FRB中央銀行として、本来世論から超越していなければならない立場。実際、現職のFRB議長のテレビ出演は20年ぶりという。
 バーナンキは、番組のなかで「経済再生の『芽吹き』はすでに目に見え始めている」と述べ、今後、主要金融機関の破たんはないとの見方を示した。
"Do you see green shoots?" Pelley asked.
"I do. I do see green shoots. And not everywhere, but certainly in some of the markets that we've been functioning in. And we've seen some improvement in the banks, as well," Bernanke said.

ガイトナーも太鼓判

 ガイトナー米財務長官が21日、米銀の大半は融資を継続するのに十分な資本を確保していると語った。この発言を受けて米株式市場は上昇した。官民の共同出資で、銀行から不良債権を買い上げようという官民投資プログラムを成功させるためには、このような、嘘もつく必要があるのだろう。

真っ向から反論する学者も

 クルーグマンは、大手銀行のいくつかが既に破たん状態にあり、国有化が不可欠だと主張しているが、ヌリエル・ルービニ米NY大教授も4月20日、同様の見解を次のように明らかにした(同教授は、米住宅バブルの崩壊が米金融システムに大打撃を加えるとして、リーマン・ショックのかなり前から予測している)。

  • いくつかの金融機関は非常に深刻な問題を抱えている(=国有化の可能性もある)
  • 米金融機関が被る損失は、これまで計上された1兆ドル(98兆円)から3兆6000億ドルに膨れ上がる可能性がある
  • 市場参加者は自分自身を欺いている(=目の前の危機を直視せず希望的観測から投資を行っている)(ロイター2009年04月22日 6:18 pm JST)
ストレステストの前評判

 ストレステストの結果は、5月4日に公表される予定だが、早くも市場では「公表される不良債権額が、全容を示すことになるのかどうかわからない」(外資系証券)とささやかれている、という。
(ロイター2009年04月22日 6:18 pm JST)

青い芽で叩かれた英閣僚

 今年の1月、英の閣僚の1人が、私には経済回復の青い芽(green shoots)がいくつか見えるのです、と発言したことで「毎日千人単位で失業者が出ているのに、お前はどこを見て言っているんだ」と野党や世論から袋叩きにあった。米国も失業率は変わらないのだが、こうはならなかった。やはり米国のマスコミは米国支配層の、支配層による、支配層のためのものであり、こうした連中はウォール街の連中とも結びついているから、ここは手を叩いておこうという、予定調和的報道が可能なのだろう。

会計基準改定に見る国家的粉飾決算

 最近米会計基準が改定され、時価評価基準が大幅に後退した。ありえないのは自行が発行した社債の評価。たとえば自行の経営不振から100ドルの社債が、80ドルに価値が下落したら、負債の社債債務も80ドルで評価すればいいのだという。この20ドルの差額を負債評価益という。この点だけは都合良く時価評価になっているのだ。償還期限が来たらどうせ100ドル払わなければならないのに、なんで80ドルで評価できるのか。要は80ドルで社債を市場から買い上げれば、20ドルの償還費用が不要となるというわけだ。しかし資本不足の時期に、買い上げができるかどうか。結局絵に描いた餅ではないかという気もする。会社が危なくなればなるほど、社債の評価は下がり、B/Sは黒になっていくというのにはやはり違和感がある。
 先般米銀の財務状況が公表され、シティでさえ1−3月期は15億9300万ドルの黒字だったようだが、こんなからくりが隠されているから、油断できない。上記の負債評価益を多く計上していたのがシティとバンカメ。シティは27億ドル、バンカメは22億ドルの負債評価益を計上している。この評価益がなければシティは11億ドルの赤字、バンカメは42億ドルの黒字が、20億ドルの黒字にと、半分になってしまう。
 そこまで無理して国家的粉飾決算を行わなければならないということは、米銀の内情が相当やばいからなんだろうと思わざるを得ない。
 米国は金融界全体で10兆ドル規模のレバレッジ金融をやっているという。架空マネーが実態マネーのレベルまで落ちてくれば、3兆6000億ドルも十分ありうる数字だろう。

ところで最高益を上げたウェルズファーゴ

 ところで最高益を上げた銀行はウェルズ・ファーゴ。30億4500万ドルの利益をあげた。同株式はバフェット銘柄でもある。ゴールドマンサックスは18億1400万ドルで、数字だけ見ればシティとは変わらないが、ゴールドマンサックスは、差別化のため時価会計をとっているというから、実態は段違いなのである。

追補:資本不足だったウェルズファーゴ

ストレステストの結果が5月7日に出た。下馬評ではバンカメとシティが巨額の資本不足ということだった。しかし結果は1位がバンカメで339億ドル、これは予想通りだったのだが、2位は何とウェルズファーゴの137億ドルだった。3位がGMの金融子会社GMCIの115億ドル、シティは4位の55ドルであった。ウェルズファーゴもとんだ上げ底決算だったわけだ。(09.5.10訂正)