減額要求と無銭飲食

減額要求の新たな問題点

 最近過払い金に対して減額を要求する金融業者が増えている。しかしここで問題になるのは「将来過払い金を100%返す気もないのに、毎月返済を受けていること」の違法性である。
 以下の考えは私の試論である。意見があればお聞かせいただきたい。

札幌高裁判決

 平成19年4月26日付札幌高裁判決は、「利息制限法所定の利率によると借主の債務が完済となっているにもかかわらず、存在するとの虚偽の事実を主張し、期限の利益喪失条項を用いて支払を強制するのは、架空請求であり、不法行為が成立する。」とした。しかし上記のような減額要求業者はこれより性質が悪い。

無銭飲食と減額要求業者

 500円しか持ち合わせのない人が、すし屋に入って3000円の特上にぎりを頼んだら、どうなるか。いわゆる無銭飲食であり、詐欺の現行犯として、即刻警察に逮捕される。それでは、返済する意思も、返済能力もなく、最初から踏み倒すつもりでお金を借りたらどうか。当然詐欺になる。
 となると、1割、2割しか過払金を返済できない貸金業者が、完済した債務と分かって、返済を受け続けるのは、札幌高裁の事案にくらべより違法性が高いといえよう。払えないと分かっていて、金を借りているのと同じで、詐欺行為と言っても良いのではないか。詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役だが、詐欺行為を集団的に行うとすれば組織犯罪法で1年以上の有期懲役に刑が加重される。

考えられる反論、そしてそれに対する再反論

 こういう主張をすれば、おそらく業者は過払いになっているとは思わなかった、と主張するだろう。
 しかし未必的故意という概念がある。たとえば、ある人が他人に毒入りのコーヒーを飲ませ、相手が死亡したとする。この犯人が「この程度の量の毒なら死ぬだろう」と思っていれば、殺人の確定的な故意があるので殺人罪になる。しかし「この程度の量の毒では死なないだろう」と思っていたのであれば、傷害の故意はあったが殺人の故意はなかったといえ、傷害致死になるにすぎない。それでは「この程度の量の毒でも死ぬかも知れないし、死なないかも知れない。でも死んだら死んだで構わない」と考えていたとしたら、どうか。刑法学上、これを「未必の故意」と呼び、かかる故意ありとすれば殺人罪になる。
 「この借主は過払いになっているかもしれないし、なっていないかもしれない。仮に過払いになっていたとしても構わない。」となれば未必的故意があるのではないか。
 仮に未必的故意がかなったとしても、重大な過失があるとはいえまいか。そうなれば不法行為が成立する。

取締役自身の不法行為責任

 会社法第429条1項は「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」とあり、役員についても、損害賠償責任を生じる余地があると言って良い。