日航再建案固まる

日航再建は会社更生法続で

 8000億円以上の債務超過状態にある日航日本航空、JAL)の再建方法については、政府が主張する法的整理か、金融機関が主張する私的整理かが、選択肢として挙げられていたが、結局は法的処理となった。もっとも、私的整理をするにしても、国が100%株を保有する企業再生支援機構が運転資金を提供してくれないとどうにもならないのだから、最初から勝負は決まっていたと言っていいのかもしれない。日航は1月19日を目途に東京地裁あてに会社更生手続開始決定を求めて申し立てることになる。
 本件の場合、裁判所や銀行団との調整を事前に進め、更生法適用申請後、直ちに機構が支援決定して再建のスポンサーとなる「プレパッケージ型(事前調整型)」と言われる方式になる。最初から着地点を決めての申立になるため、事業の停滞を生ずることもなく、手続も早く終わることになる。

再建策の具体的内容

 再建策の具体的内容は次の通りとなる。

  1. 燃料費等の商取引債権は満額保護する →そうしないと航空燃料も買えなくなる
  2. 金融機関に3500億円の権利放棄を要請 →有担保債権についても一部権利放棄を求める
  3. 社債、年金債務な一部削減 →現社員、OBから各3分の2の同意が集まらない場合、年金基金は解散となり、積立中の4000億円が配当される(現社員からは既に3分の2の同意が得られている)。
  4. マイレージは維持 →そうしないと、現在の顧客に逃げられる。
  5. 減資 →100%減資か99%減資とするかで争われている。
  6. 機構の下で、国内外の路線削減等、人員削減等のリストラを進め、3年以内の再生を目指す。
  7. 旧経営陣は退陣 →財界でも民主党シンパとして有名な京セラの稲盛会長(77)が新CEOに就任
会社更生手続とは

 会社更生手続には、裁判所による手続で、会社更生手続開始決定により開始し、再建の減額・返済計画・新役員の選任等を内容とする再生計画が認可され、計画に沿って返済を終了するまでの一連の手続を言う。日航の場合は既に財産査定が進んでおり、比較的短期に開始決定が出るのではないか。
 会社更生手続の申立があると、裁判所は弁護士を保全管理人に選任し、保全管理人が新会社の経営権、財産処分権を握ることになる。弁済禁止、担保権実行禁止等が可能である。手続中運転資金をまかなってくれる存在=スポンサー企業が不可欠となる。企業再生支援機構がスポンサー企業になる。
 裁判所の開始決定が出ると、同じく裁判所の決定により、保全管財人が更生管財人に就任し、スポンサー企業が事業管財人に就任する。「更生会社が更生手続開始の時において債務超過状態にあるときは、株主は、議決権を有しない。」とされており、日航の場合株主は手続には全く関与できない。そして事業を継続しながら、管財人のもとで「再生計画」が作成される。もっとも最終的には再生計画が債権者を主体とする関係人集会の過半数の賛成が必要なため、債権者との意見調整は不可欠となる。民事再生の場合、担保債権者は再生計画が認可された後は担保権を実行できるため、金融機関が強力な発言権を持つが、会社更生法の場合、議決権の3分の2の賛成があれば、認可決定後も担保権を行使できなくなるため、そうもいかない。
 再生計画では、債権の減額(金融機関の3500億円の債権放棄の予定)、減資、新役員の選任、担保債権の期限猶予等が行われる。

DIPファイナンス

 DIPファイナンスとは、会社更生法手続申立後、更生計画認可までに行われる融資を指す。リスクが高いため、金利も通常年10%ほどと高利だ。更生計画中は利息のみ支払、更生計画終了後通常融資に切り替わる。法的には共益債権として扱われるため、再生計画認可前に破綻しても、優先的に弁済を受けられる。
 日本政策投資銀行は09年11月に1000億円のコミットラインを設定(1000億円の範囲内なら自由に借り入れられる代わりに、1000億円借りるか否かにかかわらず、1000億円分の固定の利息を払う義務がある)、12月には2000億円に拡大した。本来は政府保証がつくはずが、政府内の調整がつかないため、結局無担保となってしまっている。申立後は、この2000億円の政投銀の債権をDIPファイナンスとして切替(支援機構がその半額の1000億円を保証する案を提示)、支援機構自体が4000億円の資金枠を設定する。日航は今後この6000億円の融資枠を使って運転資金を調達することになる。支援機構は、銀行団に対して、「債務の一部株式化(DES)」を申し入れ、日航への資本参加を求める予定とのことだが、政投銀を含め、消極的だということだ。

株式減資

 株式減資が100%減資となるか、99%減資となるかも不透明だ。単に99%減資(100株中、99株を日航が無償で取得し、1株になる)というだけなら、1000株未満の株主が単元未満株主になってしまうだけのことだが、支援機構は3000億円規模を出資して筆頭株主になるため、既存の株主の出資持ち分は大幅に減らされる。ただ99%減資の場合、いったん整理銘柄になるが、裁判所の計画認可の見込みがあり、時価総額が50億円以上ならば、上場維持が可能だ。100%減資だと、紙くずになってしまうのだから、大きな違いだ。しかし、機構は株主責任を主張し、100%減額を求めている。
 株主には、普通株保有状況は次の通りだ。()内は保有割合。

 優先株保有状況は次の通り。

追加

 企業再生支援機構の企業再生支援委員長でもある瀬戸英雄弁護士が、管財人職務執行者(統括)に、同機構専務中村彰利が管財人職務執行者(事業担当)に、片山英二弁護士が管財人(法律担当)に、京セラ元副会長森田直行、同秘書室長大田嘉仁が管財人代理になった。(10.1.30)