舞鶴の女子高生殺害事件 家宅捜索が弁護人の準抗告で中止

60歳の無職男性が容疑者として浮上

容疑者の60歳の無職男性、仮にXとしよう。このX、民家から女性の下着を盗み、神社のさい銭箱から現金約2千円を盗んだ疑いで08年11月15日に逮捕された。京都地検舞鶴支部が同26日に窃盗罪で起訴、現在も勾留中だ。しかし、逮捕の本当の目的は窃盗ではなく、08年5月7日の舞鶴の小杉美穂さん殺害事件だったらしい。京都弁護士会が弁護人を派遣。弁護士は殺人や死体遺棄容疑について男から弁護活動を引き受けることになった。

なぜこの男が捜査線上にのぼったか

失踪直前、美穂さんと自転車を押しながら歩く男の姿が防犯カメラに写っており、この男の服装がキャップをかぶったりと若者風だったため、当初は友人関係を捜査したりしていたらしい。しかし、最近になって、小杉さんと一緒に歩いていた男は若い男ではなく、年配の男だったとの証言が出てきた。
毎日新聞 2008年11月16日 東京朝刊)
舞鶴署捜査本部は、26日、Xに対する殺人、死体遺棄容疑で、Xの自宅の家宅捜索を京都地裁に申請、京都地裁は家宅捜索命令を出し、27日朝には捜索がなされる予定になっていた。
これまで、遺体などから犯人のものとみられるDNAは検出されておらず、物証も、有力な目撃証人もいない。しかし、警察は、防犯ビデオに映っていた男とこのXがよく似ている、Xが着ていた服が防犯ビデオの男の着衣と似ている、Xが問題の道路沿いの店で酒を飲んでいたとして、捜索に踏み切った。しかし、犯人らしき男はマスクをし、帽子をかぶっており、防犯カメラの写真もかなり不鮮明だ。当時近所で飲んでいたというが、事件後半年経っているとなれば、証人の記憶もかなり不鮮明になっているはずだ。下着の窃盗という性的目的の犯罪をしているという事実があったことが捜査の動機になったのかもしれないが、根拠としては乏しい。家宅捜索でかなり有力な物証が出なければ、Xを小杉さん殺害容疑で逮捕、起訴するのは難しいだろう。

弁護人の準抗告で捜索開始は一時中断

しかし、Xの弁護人が捜索令状の取り消しを求め、京都地裁準抗告した。準抗告があった場合、3人の裁判官が合議で判断することになるが、裁判の結果がでるまで、捜索命令の執行が停止されることになっている。
このため、X自宅前で捜索の開始を今か今かと待ち構えていた報道陣の前で、一時警察が撤収する事態となった。
京都地裁は27日、準抗告を棄却。弁護人は即日、最高裁に特別抗告を申し立てたが、特別広告には執行を停止する力はない。捜査本部は28日朝から捜索する方針を決定。捜索には弁護人の立ち会いを認めることにした。捜索は28日、29日と二日間にわたって行われた。

弁護士の準抗告に理由はあったか

弁護士は準抗告をした理由を、「窃盗容疑で一度家宅捜索を受けており、再度やるのはおかしい。」と説明している。法律上、同じ場所を捜索することは法律上禁止されていない。ただ同じ容疑で、同じ場所を捜索する場合、警察としては再度の捜索をすることの必要性を十分に裁判所に説明しなければならない。しかし、窃盗容疑で捜索する場合と、殺人容疑で捜索する場合は捜索対象が違う。本件のように下着窃盗の場合、ほかにも窃盗した下着がないかという、余罪追及の目的で家宅捜索が行われるが、殺人の場合は被害者の遺留品、血こんのついた着衣等の発見が捜索の対象となる。そのため、窃盗容疑での捜索の後、殺人容疑での捜索を申請する場合は、捜索対象が重ならないため、捜索の必要性が認められやすい。

今後どうなるか

現在のところ、有力な物証が押収されたといったような情報はない。仮にXが犯人だったとしても、犯行後すでに6か月もたっている。証拠も廃棄されて残っていない可能性がある。
警察は、防犯ビデオから、自転車を押していた人物は若者と思いこみ、その思い込みが犯人の絞り込みを邪魔していた可能性がある。そうだとすると、警察の失態が問われるかもしれない。