エヌシーキャピタルに対する過払い金債権をお持ちの方に

アエルの債権はどうなったか

平成18年7月28日,訴外アエルニューヨークメロン銀行(以下「NYメロン」と略す。当時は「JPモルガン信託銀行」と名乗っていた)に,貸金債権をまとめて信託譲渡した。
信託譲渡後,NYメロンは債権譲渡登記だけ済ませ、借主には債権譲渡通知は送らず、その後もアエルサービサー契約を締結し、アエルに貸金の回収をさせていた。だから顧客は債権譲渡があったことも知らず、アエルが債権者だと信じてアエルに返し続けていた。民法上は債権譲渡をした場合、債権譲渡通知を債務者に内容証明郵便で送らない限り、第三者に対抗できないのだが、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(以下「特例法」という。)というものがあって、この法律に従って債権譲渡登記をしておけば、債権譲渡通知をしなくても第三者に債権の譲渡を対抗できることになっている。
平成20年3月24日,アエル東京地裁民事再生手続を申し立て,27日に民事再生手続開始決定がなされた。ここで初めて、NYメロンは、債務者(顧客)に対して債権譲渡通知を行った(特例法では債権譲渡通知を債権譲受人が行ってもよい)。NYメロンは30日付でアエルとのサービサー契約を解除し,ネットカード株式会社に入金事務を委託した。NYメロンは平成20年6月25日,債権をエヌシーキャピタル株式会社に譲渡し、現在にいたっている。

過払金の発生時期によって分かれる請求先

現状顧客からの過払金請求は次のように行われる。
平成20年3月26日までに生じた過払金
  アエルが同時点での元利合計額の6.812%を支払う。
  ※当初は5%だったが、そのが回収資産が増えこの割合になった。
同年3月27日から4月30日までに生じた過払金
  どこも払わない
同年5月1日から6月24日までに生じた過払金
  エヌシーキャピタルが100%支払う。
同年6月25日以降に生じた過払金
  エヌシーキャピタルが元金の1割前後しか払ってこない。

旧JPモルガン、現ニューヨークメロン信託銀行への請求の可否

 平成18年7月28日から平成22年6月25日までに払われた過払金は、NYメロン以外のアエルやネットカードに支払われていたが、実際両社ともNYメロンのサービサーとして受け取っていたにすぎない。債権譲渡通知がなされていなくても、真の権利者はNYメロンであり、NYメロンが過払金を利得したものと言っていいのではないか。
 ただ、NYメロンに対する過払金返還請求訴訟は、NYメロン勝訴判決が山のように積み重なっている。判例状況からいうと、明らかに原告側の分が悪いのだ。
 しかし、NYメロンが利得していないとなると誰が利得しているのか。アエルが利得しているという判例は多い。
しかし、消費者金融を信託譲渡する形でのストラクチャード・ファイナンスは、元金残高はそのまま維持し、利息収入を優先受益権の配当に充てるのが、この信託が行われた当時一般的なスキームだったと思われる。
NYメロンの信託契約書をよく読むと、元本回収分と、利息回収分は、それぞれ充当順位が違っている。
利息回収金:税金、信託費用、サービサー報酬、信託報酬といった経費に充てられた後、残りが優先受益権への配当に充てられる。
元本回収金は、基本、セラー受益権の配当に充てられる。アエルが回収した元本を優先配当に回してしまっては、その後の収益は先細りになってしまう。そのため、セラー受益権とは、貸付残高を維持するためアエルに配当されるものである。アエルは、訴訟で上記主張をすると、アエルはセラー受益権を自由に使えるから、アエルの利得であるとする。しかし、実際はどうだろうか。新たな将来債権に回すことなく、運転資金に使ってしまっては、優先受益権者への配当はどんどん先細ってしまう。もしアエルが元本回収分を融資に回せないことによって信託債権額残高が一定水準を下回った場合、それがトリガーを引くことになる(これが早期償還の意味ではないか)。
だから、アエルはセラー受益権をどんどん将来債権の取得源資に充てなければならない。その結果新たに生じた貸金債権は信託財産に帰属する=受託者としてのNYメロンが有する債権となるのである。
トリガーを引いた後、アエルは、元本回収金はすべて信託財産に組み込まれていき、その結果、アエルは破たんへの道を一直線に進むしかないのである。

新たな判例評釈

東京地判平成24年4月19日(判例時報2157号43頁)はNYメロンを勝訴させた判決だが、金融法務事情1977号(2013.9.10)67頁の道垣内弘人東大教授の判例批評をぜひ読んでほしい。
同評釈は、NYメロンを勝たせたこの東京地裁判決が掲げる理由5点を次のようにばっさばっさと切り捨てています。
①はどうか。これは対抗要件と言うものの考え方に反している。
③の理由は明らかにおかしい。
④も理由にならないことは明らかである。
⑤も理解できない。
そうして②についても、これを理由としてNYメロンを勝たせた東京地裁の右にならえ判決を否定し、これに反対の意見を述べて過払金原告を勝たせた他の複数の判決の論旨を支持しています。
※上記東京地裁が①〜⑤の判決理由は上記金融法務事情の評釈を読んでください。
これまで数多くの裁判官が、大手法律事務所アンダーソン毛利の肩書に押され、ありえない理屈を並べてNYメロンを勝たせてきましたが、道垣内教授は正論を言ってくれています。
(2013.11.6加筆)