日本振興銀行、二重譲渡問題で敗訴

日本振興銀行の二つの敗訴判決

 SFCGが06年、新生信託銀行に貸付債権を譲渡したが、08年、日本振興銀行にも同じ債権を譲渡したため、どちらの債権譲渡が有効となるかが、東京地裁で争われていたが、7月27日、新生信託銀行に請求通りの436万円を支払うように命じる判決が言い渡された。さらに29日にも、あおぞら信託銀行日本振興銀行に提訴していた同様の訴訟で、東京地裁は、振興銀行に対して、請求通りの428万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

二重譲渡の場合の対抗要件

 二重に債権が譲渡された場合、何を持って優劣を決めるか。この優劣の基準を法律は対抗要件と呼んでいる。不動産が二重譲渡された場合は、「債権譲渡を知らせる内容証明郵便の先後」が対抗要件となる。すなわち、借主は先に譲渡通知が来た方に支払えばいいし、債権を譲り受けた同士では先に到着させた方が勝つことになる。
 ところが、98年に「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」という法律ができて、この事情が変わった。この法律の特殊な点は、債権の二重譲渡があった場合、対債務者の対抗要件は債権譲渡(譲受)通知とするが、債権者同士の対抗要件は登記で決めるとしている点である。

本件ではどうか

 本件ではどうだったかというと、SFCGは06年信託銀行に債権を譲渡、登記もしたが、債務者への譲渡通知は送らなかった。SFCGは同じ債権を08年に日本振興銀行にも譲渡し、同銀行は登記をし、かつ、債務者にも債権譲渡を受けた旨の通知を送った。特例法によれば、債務者との対抗要件は債権譲渡(譲受)通知だから、先に送った日本振興銀行が優先する、すなわち債務者に請求できるのは日本振興銀行になる。しかし、対債権者の対抗要件は登記だから、優先するのは信託銀行。信託銀行は振興銀行が受け取った返済金を自分に寄越せということができる。もしこれが認められると、日本振興銀行は鵜飼の鵜。呑み込んだ魚はすべて鵜匠の信託銀行に取られてしまう。

振興銀行の主張

 こうして見ると分が悪い日本振興銀行だが、これらの信託銀行が債権譲渡を受けるときに、信託名目で登記していることに噛みついた。「信託で譲渡を受けた以上、自らが債権者と名乗る必要があるはずだが、信託銀行は登記だけして、債務者にはそれを知らせず、債務者はSFCGに返済を続けていた。これでは真実譲渡が行われたとは言えない。」「そもそも信託ではなく譲渡担保だったのではないか。だったら登記でもそのように書くべきで、信託とした登記自体が真実に反し無効だ。」と言うのだ。しかし結局振興銀行の主張は通らなかった。

訴訟が少額で起こされた理由

 新生信託銀行あおぞら信託銀行とも、提訴したが、436万円、428万円という低額だ。おそらく1件分について提訟したのだろう。本当は数千件あるはずなのに、なぜか。これは手間と効果の問題だ。数千件もいっぺんに提訴したのでは、訴状も膨大だし、それぞれの債権に証拠を添付しなければならないから、それこそトラック一杯分の書面を裁判所に提出しなければならない。裁判所だっていい迷惑だ。それで、多数ある債権のうち1件だけをピックアップして請求したのだろう。一件勝てば他も争点は同じだから、他に訴訟を提起しても、同じ判決が出ることになる。最高裁まで行って、信託銀行勝訴となれば、その他の債権も全て信託銀行が優先することになる。最高裁まで行かなくても、今回のような判決が続けば日本振興銀行が大幅な譲歩を迫られる和解になる可能性が高い。