中国、レアアースを武器に日本の素材技術を強奪

 現代の先端産業に不可欠な資源がレアアースである。他の金属素材に混ぜることで、素材の性能を高めるもので、いわば素材産業の調味料のような存在だ。しかし一番の問題は、その生産量の97%を中国が占めていることだ。日本が誇る素材産業の命綱を中国が握っているのだ。
 中国北西部の新疆ウィグル地区と南部地区がレアアースの主要生産地であるが、北と南とではかなり様相が異なる。南部はガリンペイロよろしく、零細な違法採掘業者がひしめいている。北部は共産党系企業ががっちり生産流通ルートを握っている。
 中国で今、南部地域のレアアース鉱山の閉鎖が続出している。違法な採掘業者の乱開発による環境破壊が深刻化しているため、環境保護のため閉鎖するということになっているが、それは表向きの理由だ。
 このことで一番利益を受けるのは北西部でレアアースを採掘している共産党系企業である。実際に今年はレアアースの輸出が前年比の4割に落ち込んでいる。
 当然価格は高騰する。前年比でジスプロシウムは2倍、ネオジムは2・4倍に高騰している。ダイヤモンド・オンライン5月12日の記事は「北方鉱の供給を握る大手の包鋼グループが、原料の供給や流通を支配することで価格コントロールを狙っていることが背景にはある」としているが、その程度で済むなら御の字と言ってよい。
 中国が狙うのは、ズバリ日本の先端技術だ。たとえばリチウム電池。確かに中国も韓国もリチウム電池の生産量を急増させ、日本企業を急追しているが、電池生産技術に不可欠な正極、負極部材等、電池の主要部品は日本企業がすべて押さえている。だから最近は韓国でも李明博大統領が音頭を取って、こうした部材の国産化を進めようと躍起になっている。
 中国は、近いうちに、レアアースを武器に日本に技術の移転を迫ってくるはずだ。「レアアースが欲しければ、中国国内に合弁企業を作りなさい。そこにならレアアースを供給しましょう。」と言われれば、日本企業はこの脅しにのらあるを得ない。南部の零細企業が生きていたら、そこが輸出しようとしてくるだろうから、共産党政府も共産党系企業もそこまではごり押しできない。しかしもう南部の零細企業は壊滅させられつつある。中国が日本を脅す準備は十分整っていると言っていい。
 では日本政府はこの問題にどう対処しているのか。実は何の対処もしていない。政府は、石油ばかりではなく何種類かの希少金属については国家備蓄を進めている。しかし今更マンガンなどを指定しながら、レアアースは指定されていない。このまま日本の素材産業が収奪されるのを政府は眺めてみているだけなのか。
 やることは一つ。ベトナム、モンゴル、カザフスタンレアアースの埋蔵が見込まれる地域の権益を大至急確保することである(もう中国の手は伸びているだろうが)。赤字覚悟でいい。そうしないと日本の素材産業の未来はないのだから。
(追記)
中国国務院が『企業合併・再編促進に関する意見』を公布。レアアースを合併・再編促進産業のリストに加えた。政府関係者によると、レアアース業の合併・再編により、15年までに現在の約90社から約20社に統合する計画であるという。(10.9.18)