プロミス・クラヴィス 受益の意思表示

クオークローンとプロミスの関係

クオークローン(以下Q社という)、前の社名はプラット(藤和商事、リッチ、シンコウが合併)、今の社名はクラヴィス
この会社、元はプロミスの子会社だが、平成19年に、プロミスに事実上経営統合され、名前もタンポートと変えた。本来はプロミスが貸金を回収し、過払金の処理を終えたら、精算するつもりだったのだろう。
Q社のお客さんへの貸金債権は、一部は親会社のプロミスへの契約の切替となった。すなわち、Q社の貸付金が30万円だったとする。プロミスが客に30万円を貸付けるが、客には直接渡さず、Q社に直接送金する。こうしてQ社との取引がプロミスとの取引に切り替わる。Q社の利息が29%ほどだったのに比べて、プロミスの利息は25%くらいだから、利息が安くなるなら有りがたいということで、単純に切替に応じる人が殆どだった。

併存的債務引受

 実はプロミス、Q社への貸金について契約を切り替える前に、Q社との間で、契約切替後、Q社の過払金債務について、Q社と並んで返済に応じると言う協定を結んでいた。法的にはこれを併存的債務引受という。そのため、プロミスは、契約の切替を行う際、客から「契約切替後のお問合せ窓口,および株式会社被告クオークローンサンライフ株式会社における本日までの取引に係る紛争等の窓口は,従前契約先に係わらずプロミス株式会社となることに異議はありません。」という文言のある書面に署名押印をさせて、一筆とっていた。
 プロミスの当初の対応はまともだった。完済となったQ社には当然過払金が発生している。Q社がプロミスの子会社でいるうちは、プロミスが責任を持って対応していたので、過払金は返ってきていた(素直には返さなかったが)。

クオークローン見捨てられる

 しかし、過払金の支払が増大する等経営環境が悪化。プロミスはこっそりQ社との間で、併存的債務引受の合意を撤回。その上で、お荷物でしかないこの子会社をネオラインキャピタルに売却。ここから話しがおかしくなる。
 Q社がネオラインに身売りされてから、過払金を請求しても3割にしてくれ、と言ってくるようになった。しかしプロミスとの契約は、新しいから、利限計算しても残がしっかり残っている。プロミスが契約の切替さえしなかったら、Q社に過払金を請求するだけで、貸金の返済は迫られなかった。「切替をしたばかりに、過払は返ってこないは、借金は返せと言われるわでは、納得できない」と、Q社の元顧客は怨嗟の声を上げた。当然だろう。
 今、プロミスを被告として、Q社の過払金を払えという訴訟が、全国で大量に起されている。

法律構成

 法律構成は、大きく分けると二通り考えられる。一つは、プロミスは貸金の譲渡を受けたのではなく、貸主としての契約上の地位を引き継いだもので、その結果、過払金債務も当然に引き継いでいる、という考え方である。もう一つは、過払金債務をプロミスが引き受けたのだから、当然に支払えという話である。ここでは後者の法律構成について検討したい。
 プロミスに対する過払金請求訴訟で原告が勝った裁判例もあるが(名古屋消費者信用問題研究会)、負けた裁判例も多くある。むしろ負けた例の方が多いかもしれない。負けるポイントの一つが受益の意思表示である。併存的債務引受は、民法537条の第三者のためにする契約に該当するが、そうなると、受益者たる過払金債権者は、債務引受という利益を受ける旨の意思表示(受益の意思表示)をしないと、権利が確定しない。権利が確定しないうちに、債務引受を撤回されたのだから、プロミスからQ社分の過払金は取れないというのが、プロミスの理屈で、残念ながらこの理屈を認めてしまう裁判所が多い。
 しかし、Q社の利用客は、被告クオークローンとの取引について、「紛争等の窓口は,従前契約先に係わらずプロミス株式会社となることに異議はありません。」とある書面に署名押印して、プロミスに渡している。これが、受益の意思表示となるのではないかというのが、過払金債権者の理屈である。
 名古屋消費者信用問題研究会が、モデル書面をHPに載せ、この点に関し、次のような理論構成をしている。紙幅の都合上、意訳気味なので、原文を当たられたい。

  1. 三者のためにする契約で,受益の意思表示が効力要件とされているのは,第三者に財産上の不利益を負わされることを避けんがためである。併存的債務引受においては,新たな債務者が加わることで,債権の担保力が却って増すからであるから、受益の意思表示は不要である(平井宜雄著債権総論第2版156〜157頁も同旨)
  2. 仮に、受益の意思表示が必要されるにしても、過払金債権者の受益の意思表示を求める実質的理由が乏しい以上,受益の意思表示も具体的、確定的なものであるを要しない。仮に,プロミスがQ社の債務を引き受けないのであれば,被告プロミスがわざわざ紛争等の窓口となる必要はない。プロミスはQ社の債務を引き受けたからこそ,かかる記載をしたのである。利用客にしても,プロミスらから,紛争の窓口のプロミスが被告クラヴィスに代わって支払うことを告げられることで,被告クラヴィスの債務も引き受けたものと理解するのが自然である。
私見

 上記理由付けももっともであるが、さらに次のようにも言えはしないか。私が訴状に書いている文章をそのまま引用する。
 そもそも現在のような契約社会において,「契約の文言中、認識、理解していない部分があれば,その部分については法的効力が及ばない。」となどということはありえない。それは被告のような貸金業者にあっては当然の理として理解されているであろう。利息・損害金の利率,サイクル制を取った場合の期限の定め,利息及び損害金の計算方法,期限の利益喪失条項等,実際に借り手はその内容を一つ一つ確かめることも,理解することもなく,署名押印するが,「契約書に署名押印した」という一事をもって,借り手は,実際には認識も理解もしていない契約の細部の条項に拘束されるのである。それは擬制或いはフィクションと言えるかもしれないが,かかる擬制がなければ契約社会は存立できないのである。
 だとするならば,「残高確認書兼振込代行申込書」の内容についても,原告がその細部についても,内容を認識し,理解することを要求される言われはなく,当該文書から通常読み取れるであろう内容については,原告と被告らの合意があったと解すべきである。ことに本件書面は被告が作成したものであるから,被告がその内容が抽象的であることを理由に責任を免れることを許すべきでないことは,契約原理ないし禁反言の原理上も当然である。
 さて,同書面4項にある「契約切替後のお問合せ窓口,および株式会社被告クラヴィスサンライフ株式会社における本日までの取引に係る紛争等の窓口は,従前契約先に係わらずプロミス株式会社となることに異議はありません。」という文言であるが,確かに「紛争」とあるだけで,その具体的内容は明らかではない。過払金請求権とも具体的には述べていない。しかし,同書面が作成された当時は,既にみなし弁済の成立範囲を大きく狭めた最高裁判所平成18年1月13日判決が出た後であり,過払金請求が激増していた時期である。そこにおける「紛争」とは,過払金返還請求権が想定されていたと考えるのが自然である。過払金返還請求権の存在が明示されていないのは,被告らとしては,かかる債権の存在を被告クラヴィス顧客に知らしめ「寝ている子を起こしては困る」という,被告側の都合から曖昧な形にされたからに過ぎない。実際,被告プロミスは被告クラヴィスの過払金返還債務を併存的に引き受けたのであり,それを直接書くべきところ,被告らは,被告プロミスが「紛争等の窓口」となる旨,顧客宛て,敢えて曖昧な表現で表示したのである。しかも,その事情はプロミスの「極力過払金返還債務の履行を免れたい」との意図に基づくものに過ぎない。意思表示に譬えて言えば,債務を引き受ける旨の内心の意思表示は有り,過払金請求が激増している中,貸金業者の認識を基準に考えれば,債務を引き受ける旨の表示上の効果意思もある。したがって,同書面を原告宛提示することは,被告プロミスが被告クラヴィスの過払金返還債務を引き受けた旨を表示したことになると言って良い。
 被告プロミスは被告クラヴィスから過払金返還債務を,併存的に引き受けたからこそ,敢えて曖昧な表現を用いながら,併存的に債務を引き受けた旨を原告に通知したものである。そうでないならば,被告プロミスがわざわざ自ら紛争等の窓口となる必要はない。
原告らは,係る内容の書面を受け取って,署名押印した以上,被告クラヴィスの過払金返還請求権を被告プロミスに請求しうることについての,受益の意思表示を行ったものということができる。