中国版新幹線 川崎重工の契約に落ち度は無かったか

中国版新幹線開業

 北京、上海間を結ぶ中国版新幹線が、6月30日に開業する。名前は「和偕号」。胡錦涛政権のキャッチフレーズ「和偕社会(調和のとれた社会)」から名前をとっており、政権の威信をかけた国家事業である。

前倒しになった開業日

 当初12年開業予定だったが、今年7月1日に中国共産党が90周年を迎えるため、開業日が今年度に前倒しになった。さらに6月24日、急遽、7月1日開業の予定が6月30日開業と前倒しになった。「新幹線の開業日と共産党創立記念日が重なると、報道も重なることになってよろしくない」という党の判断から、前倒しされた、という。

はやてのコピー

 この中国版新幹線は、中国メーカー南車集団が川崎重工業が作った新幹線「はやて」をコピーしたものだが、中国は「川崎重工業などから導入した技術では、時速200〜250キロでしか走れなかったのを、独自技術により380キロでを走れるようになった。」と主張。この新幹線車両の特許を米国で申請すると発表した。
 6月21日付の「21世紀経済報道」によれば、鉄道省科学技術局長などを務めた周翊民は「中国は日本とドイツから導入した技術を元に独自技術で時速380キロの営業速度を実現したとしていたが、実際には安全上の考慮を無視し、日独が試験走行で達成していた速度に近い速度での営業を命じただけだった」と証言、「自分の技術でないので問題が起きても解決できない。結果の甚大さは想像もできない」と指摘した。

川崎重工業の交わした契約に不備はなかったか

 川崎重工業は、国内向け中心だった日本の車両メーカーの中では特異な存在で、25年前から米国に進出している。中国でも合弁会社を設立し、中国国内での現地生産を積極的に進める方針をとっていただけに、今回の特許申請はそうした同社の方針に冷や水を浴びせるものになる。
 川崎重工業が交わした契約では、中国への新幹線技術供与はあくまで中国国内の利用が条件だったが、車両輸出を狙う中国は今回特許申請するのはあくまで「国産技術」と主張し、海外輸出を正当化している。川崎重工業がどのような契約を締結したのか不明だが、契約条項が、こうした主張を想定したものだったのか、興味の持たれるところだ。
 中国は、ロシアから兵器を購入したが、これをコピーして作っているのに、「独自技術」と主張。コピーした航空機等を他国に輸出したため、ロシアは中国への兵器輸出を取り止めている。中国が新幹線でも同様の主張をすることは十分に考えられていた。

特許国際出願手続

 今回行われた特許の国際出願手続は、複数国への特許出願を容易にするための特許協力条約(PCT)に基づくものだ。PCTは、国際的に統一された出願願書を加盟国である自国の特許当局に提出すれば、他の条約加盟国でも出願したとみなす制度である。特許を認めるかどうかは各国の特許当局が判断する。国際出願の国際公開は、18月が経過した後に行われるため、現段階ではどのような内容の特許がなされたかも不明である。

国鉄道省の夜郎自大(追加)

 中国鉄道省の報道官は7月7日、新華社のインタビューで、中国版新幹線が「多くの技術は日本の新幹線よりはるかに優れている。」「日本の高速鉄道計画にも技術を提供したい」と答えた(11.7.8日経朝刊)。夜郎自大であろう。