京都地裁の書記官 偽造判決で凍結預金を不法に領得

新聞報道から

京都家裁の35歳書記官、詐欺に使われ凍結された口座の金を送金するため文書偽造 逮捕
京都家庭裁判所の書記官が、振り込め詐欺に使われたとして凍結された銀行口座の金を自分が管理する口座に送金するため、文書を偽造したとして逮捕された。
偽造有印私文書行使の疑いで逮捕された京都家庭裁判所の書記官・広田照彦容疑者(35)は、振り込め詐欺に使われたとして、2008年1月から凍結されていた埼玉・熊谷市内の銀行口座の金を別の口座に送金させるため、2008年9月、振り込み依頼書を偽造し、銀行に送った疑いが持たれている。銀行はネットバンクの口座に振り込み、10月上旬、京都市内のATM(現金自動預払機)で数百万円が引き出されていた。
一方、偽造文書が送られてくる前、さいたま地裁熊谷支部京都地裁の印鑑も押された偽の判決文などが郵送され、本物と判断した熊谷支部は差し押さえ命令を出し、口座の凍結は解除されていた。埼玉県警は、判決文の偽造についても広田容疑者を追及している。
(yahooニュース08年12月8日6時27分更新)
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn/20081207/20081207-00000441-fnn-soci.html

ヤミ金振り込め詐欺への特効薬 口座凍結

犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律という法律がある。この法律は、暴力団、麻薬組織等によるマネーロンダリングを防止しようとして作られた。この法律は、他人名義の銀行口座を、その他人になり済まして利用する目的で、銀行預金通帳やカードの発行を受ける行為を罰している。そして、この法律は「振り込め詐欺被害者救済法」とも呼ばれている。この法律の3条により、そのような疑いのある銀行預金口座を凍結でき、一定の手続後、その口座の預金が被害者に分配されるからである。こうしてヤミ金や、振り込め詐欺グループが、第三者の名前で使っている預金口座がどんどん凍結され、被害者に分配されている。現在も、五陵会事件の被害者向けに分配手続きを受付中である。
http://furikomesagi.dic.go.jp/higaisya.html
※ なお当ブログ08年11月14日付記事参照
この書記官は、被害者にとって虎の子のこの口座から、預金を引き出してしまったのである。到底許される話ではない。

結局この男は何をやったのか。

振り込め詐欺被害者救済法で凍結された銀行口座も、口座名義人等の権利者が「権利行使の届出」をすると、凍結も解除される。
この場合、やり方は二つある。口座名義人が銀行に対し預金の払い戻しを求めて裁判をし、これに勝訴すると、払い戻しがなされる。もう一つの方法は、口座名義人に対して裁判を起こし、問題の預金を差し押さえる方法であり、この書記官はこの方法をとったのである。例えば、口座名義人がB、銀行がCとする。第三者AがBに対して貸金訴訟(売買代金訴訟でも何でも、金銭の支払いを求める裁判であればよい)を提起し、C銀行に「権利行使の届出」をする。AがBに勝訴すると、その判決に基づき口座名義人BのC銀行に対する預金債権を差し押さえる。差押手続後、AはC銀行に、自分の銀行預金口座に振り込むように郵便で指示をする。そうするとC銀行はB名義の預金金額を、Aの口座に送金することになる。
広田容疑者は、予めA名義の銀行預金口座を手に入れたのだろう。その上で、AのBに対して金銭の支払を求める京都地裁の判決を偽造、この偽造判決に執行文もつけなければならない。広田はAの名前を騙って、この偽造判決を使ってさいたま地裁熊谷支部に申立をし、BのC銀行に対する預金債権を差し押さえた。この差押手続は郵送だけでできてしまうので、広田容疑者は顔を見せないで済む。差押があると、C銀行はAに預金の支払いをしなければならなくなるので、広田はAを騙って、C銀行に郵送で●銀行の●支店のA名義の口座に送金するよう指示するのである。
以上の内容を見て、1回で理解できる人はあまりいないだろう。これだけの手続きをするのは素人では無理だ。だから犯人像も当然、法律関係者には絞られていたのであろう。広田は裁判所の書記官だから、裁判実務のプロ、でないとこれだけの手続きはできない。特に裁判所が使用する用紙を使って偽造しているため、内部者の犯行ということで内偵が進められたのではないか。

この事件の背後関係

裁判所の書記官が、なぜこんなことをしたのか。振り込め詐欺の犯人グループに何らかの弱みを握られ、犯罪に引きずり込まれたのではないかと思う。最近、勤務中に携帯電話を使っていた巡査長が、勾留中の被疑者から「クビになりますよ」と脅迫され、携帯電話の貸与など便宜供与を始めるうち泥沼にはまり、最終的には現金500万円を脅し取られたという事件があった。同じような背景がこの書記官にもあったのではないか。
※この翌9日のブログでは、本人単独犯行説に見解を変えました↓
 http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20081209/1228802674

今後の処分

偽造判決を作ったとなると、公文書偽造罪が成立する。しかし、裁判所の内部の人間が判決を偽造し、偽造判決で差し押さえをし、なおかつ振り込め詐欺グループにそれで得た金を流したなどということになれば、前代未聞のことである。裁判所に監督責任がなかったとしても、信用失墜甚だしい。彼自身も相当重い刑罰を受けることになるだろう。