タイ地下銀行摘発 はたした衝撃事件なのか

6月1日付msn産経ニュースで、「【衝撃事件の核心】タイ地下銀行事件を追う 不正送金の手口、背景は…」とのタイトルで、地下銀行を営んだとして、タイ人や日本人で構成されるグループが摘発されたことを取り上げている。
「栃木県を中心に全国から顧客を集め、不正送金の総額は約10年間で計約150億円に上るとみられる。地下銀行で得た日本円を正規の貿易ビジネスで「資金洗浄」して収益を上げる仕組みもあるとみられ、背後にはタイの犯罪組織の存在もちらつく。」
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140529/crm14052920480016-n1.htm
というのだが、衝撃事件、背後にタイの犯罪組織という書き方には違和感を感じる。
この記事が指摘するように、こうした犯罪がおきるのは「(地下銀行の外国送金)手数料は1回2千円ほどで、送金は即日。正規の銀行を介すると手数料は2倍以上、期間も1週間近くかかる。利用者の大半は日本へ出稼ぎにきているタイ人で、『悪いことだと思ったが安くて早いので使っていた』などと話した」という事情があるからだ。
タイから出稼ぎに来て、やっとの思いでためた2万、3万円というお金をタイに送金すると5000円くらいとられてしまう。彼らにとっては身を切られる想いだろう。こうした「正規の銀行」の暴利ともいうべき送金手数料がこの事件の裏側にある。
手口は単純で、在日タイ人が、地下銀行に「●万円をタイのA銀行C支店の■名義の預金口座に振り込んでほしい」と依頼する(本件ではSNSが使われていたらしい)。地下銀行は自分の管理する銀行口座(みずほでも三菱東京UFJでもいい)にお金を振り込ませる。そして、タイにいる地下銀行の仲間に連絡、この人間がタイバーツで●万円相当の金額をタイのA銀行C支店の■名義の預金口座に振り込むのだ。そうなると、タイ国内の仲間のバーツが不足しそうだが、その点はうまくできている。タイの会社で日本から商品を仕入れるのにバーツを円に換える必要がある。だからタイの会社が地下銀行に●万バーツを渡すと、今度は日本の仲間にその旨を伝える、日本の仲間がそのタイの会社の在日従業員に●万バーツ相当の円を渡すのである。
この犯罪で誰が損をしているかと言うと、日本の銀行である。日本の銀行が高い手数料をとるのを守るために、警察が地下銀行を摘発するのである。確かに、日本のやくざがタイで稼いだ金を日本に送るのに使ったとか、日本の自動車窃盗団から買った車の代金に充てるということであれば、犯罪収益も絡むため違法性が強いが、上記記事によるとタイの貿易会社が日本の中古車を買うのに利用しただけのようだ。
まぁ違法ではあるのだが、衝撃事件であるとか、さもタイの犯罪組織が極悪なことをやっているように書くのは、この種の犯罪の実態を知らないのではないかと言いたくなる。