住職強盗殺人事件 強盗殺人か、殺人+窃盗か

岩手県一関市で、借金の返済に窮した主婦が、住職を包丁で刺し、その母親を灰皿で殴打して殺し、現金を奪ったという事件で、盛岡地裁は10月8日、強盗殺人罪の成立を認め、死刑を言い渡した。

弁護側は「被告人は、最初は顔見知りの住職の母を包丁で脅しお金を脅し取ろうと考え寺を訪れたが、殺害までは考えていなかった。しかし、体格のいい住職も同席したため、強盗をあきらめた。その後「300万円貸してほしい」と頼みこんだが、住職から自分の母親に関して侮辱的なことを言われ、激高して殺害。その後、われに返って金を盗んだ」として、強盗罪ではなく、殺人と窃盗罪が成立すると主張した。

検察側は、「被告人は最初から住職の母を殺し、金品を盗るつもりで寺を訪れた。その際、手袋やバンダナを用意し、指紋や毛髪を残さないようにするなど極めて計画的な犯行だった。住職と母を殺害した時も、殺した後に物を盗ろうと考えての行動だった。」として、強盗殺人罪が成立する、と主張した。

これには解説が必要だろう。
「強盗するつもりで、人を殺し、その後被害者の物を盗む」行為は強盗殺人になる。
しかし、「殺した時は強盗の意思はなかったが、殺害後、金目の物が欲しくなってつい盗んでしまった」という場合は、強盗殺人罪ではなく、殺人罪と窃盗罪が成立するにすぎない。
この事件を、検察側は前者だとし、弁護側は後者だと主張したのだ。

裁判員制度も来年から実施されるので、ここはひとつ、検察の主張が正しいか、弁護側の主張が正しいか考えてほしい。

私としては、弁護側の主張はかなり苦しいと考える。
まず、被害者が被告人の顔見知りだということが一番大きい。被告人は包丁を持って行ったが、脅すだけの積りだったというが、だとしたら、住職の母を脅して金を盗ったあとどうする積りだったのだろう。被害者が帰った後、住職は当然警察に電話するし、面は割れているのだから、すぐ逮捕されて終わりである。

犯行後行方をくらますつもりだったと弁解するのであろうか。
もし検察が言うように、被告人が手袋やバンダナを用意して寺に行っていたとしたら、その言い訳も成り立たない。
顔見知りなのだから、指紋や、髪を残すことを心配する意味がないのだ。被害者を殺し、自分が犯人とばれないようにしたとしか考えられない。

私はこの事件を、新聞記事でしか見ていないので、断定はできないが、弁護側の主張はかなり苦しい。

ただ誤解しないようしてほしいのは、弁護側が、こうした言い訳で被告人を救おうとしたのではないだろうということである。被告人がこうした言い訳を主張して止まないため、弁護側としては、その主張をせざるを得なかったのではならなかったのではないか。
弁護側がいくら本人に「そのような言い訳は、苦しい。かえってそのような言い訳をすると、反省が足りないと見られて、罪が重くなる。」と忠告しても、本人がその主張を貫き通すとしたら、弁護士はそれに従わざるを得ないのである。