スマート・グリッド

主役はスマート・メーター

 スマート・グリッドは直訳すると「賢い送電網」。しかし、その主役は送電線ではなく、スマート・メーターと呼ばれる次世代電気メーターだ。このメーターは通信機能を搭載し、家庭での電力使用状況を一定時間ごとに需要側と供給側が双方向通信することで、遠隔検針や自動検針が可能となり、需要にあった電力供給、変動制の料金体系を実現できると期待されている。例えばピーク時の電気量を高くすることで、利用者の電気の節約を促し、最大需要を抑制する。さらにはエアコンの設定温度も下げたりする機能を持たせることも可能だという。またスマート・メーターは家庭のパソコンともつながり、家庭のコンピューターで家電の電力使用状況を知ることができる。
 さらに、太陽光発電発電所との間の調整も可能になる。太陽光発電は、その時々天気によって、発電量が大きく上下する。このスマート・メーターから、太陽光発電のデータを電力供給者側に伝達、供給者側は地域全体の供給電力量を把握し、今度は逆にスマート・メーターに「今は電気が多すぎるから、蓄電池に充電しろ」と命令を出したりする。
 また、新たなエネルギー・マネジメント・システム(EMS)が必要となる。

スマート・メーター、14年には2億台との予想

 市場調査会社である米ABIリサーチ社が発表した新しいレポートによると、全世界の設置済みスマート・メーターの数は09年には7600万台だったが、14年にはおよそ2億1200万台にまで達するという。

米国での投資計画

 米国では09年2月「米国再生、再投資法」が成立。景気対策として、09年から19年までの11年間に、総額7872億ドルという巨額の対策費を出すことになったが、09年9月までにその4分の1、10年9月までに2分の1が執行されることになっているが、スマート・グリッドには110億ドルの予算がつけられている。米エネルギー省(DOE)から各州のスマート・グリッドプロジェクトに支援が向けられる。現在45億円の予算が組まれている。

EU、中国も本腰

 EUでは、09年9月に「Third Energy Package」という法案を制定。22年までに欧州の電力量計すべてを、双方向通信が可能なものに転換することを目指すものだ。例えばイタリア最大の電力会社ENEL社は、06年4月という古いデータだが、この時点でインテリジェント・メーター設置台数は2500万台、遠隔管理実施済みメーターは2000万台以上を数えるまでに増えている。
10年3月13日付日経新聞は、中国政府が20年までに、スマート・グリッドを活用した電力供給体制の整備に4兆元規模を投ずる方向で検討を始めたと報じている。風力などの新エネルギー発電能力比率を、現在の2%から10%以上に引き上げるとの目標を設定しており、スマート・グリッドの開発が不可欠となる。

日本の取り組み

 こうした中で一番出遅れているのが日本だ。日本は蓄電池、太陽発電等、中核技術を持っていながら、政府も腰が重く、明確な育成戦略が描けていない。経産省が音頭をとって、全国4か所、合計約5000世帯で実証実験を行う。ただ日本では実証実験を行うについて、以下の三つの障害がある。日本でも経済特区を設けるなど、思いきった方策がとれないだろうか。

  1. 通常の電力線でインターネット情報等を送る技術PLCの実験ができない。屋外でアマチュア無線の周波数帯と重なってしまうからだ。
  2. 時間毎に電力料金を変更することは、現在の電気事業法等の法律下では難しい。
  3. 消防条例などによって、実質的に大型の定置型蓄電池が一般家庭に設置出来ない。

 そこで、注目されるのが、NEDOが中心となって、ニューメキシコ州が計画していた5箇所でのスマート・グリッド実証試験のうち、2か所で日本企業が共同実験を行えることになった。米国で参加するのは、ロスアラモス国立研究所、サンディア国立研究所、ニューメキシコ州立大学、インテル社。日本側はNEDOが09年11月に実証事業参加企業の公募を開始した。同実証プロジェクトは、10〜13年までの4年間で、合計約30億円、うち初年度の10年には各種施設設備費用などで約18億円を投じる。

経産省も国際標準作りを先導

 経済産業省は、09年8月に発足した「次世代エネルギーシステムに係る国際標準化に関する研究会」がとりまとめた成果を受けて、10年2月、スマート・グリッドの国際標準化を目指し、日本企業が優位にある「26の重要アイテム」を選定した。国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)などに提案し、3年以内に国際規格としての成立を狙う。
 経産省はスマート・グリッドを「最新のIT技術を活用して電力供給、需要に係る課題に対応する次世代電力系統」と定義し、スマート・グリッドの実現に必要な技術を7つの事業分野に分け、日本企業が強みを持つ標準化が必要な26種類の重要技術を選びだした。
 7つの事業分野とは、次の通り

  1. 送電系統広域監視制御(WASA):東電や関電など、企業の壁を超えて電力供給量などの監視制御を狙う。
  2. 系統用蓄電池:変電所や需要家に近い配電用変電所、複数のビルや産業システムにまたがったグリッドのそれぞれに大容量2次電池を接続し、より効率的な配電を試みる。
  3. 配電網の管理:太陽電池や電気自動車など、従来はそれぞれ独立して送電網と接続していた機器同士を連動させる。
  4. デマンド・レスポンス:需要側の消費電力、家庭用太陽電池2次電池などの分散電源の能力を常に把握し、CO2排出量の多い火力発電所からの電力供給を抑える仕組み
  5. 需要側蓄電池:家庭や中規模グリッド、産業部門内部で余剰電力を2次電池に蓄えることで、系統にかかる負荷を減らす
  6. 電気自動車:高い負荷がかかる電気自動車向けの急速充電器を既存の配電設備に組み込む仕組み
  7. AMI(Advanced Metering Infrastructure)システム:従来の電力計に替わる課金システム

 以下が標準化が必要な26種類である。
(1)送電系統広域監視制御システム、(2)系統用蓄電池最適制御、(3)配電用蓄電池の最適制御、(4)ビル・地域内の電池の最適制御、(5)蓄電池用高効率パワー・コンディショナ、(6)配電自動化システム、(7)分散型電源用パワー・コンディショナ、(8)配電用パワエレ機器、(9)デマンド・レスポンス・ネットワーク、(10)HEMS(Home Energy Management System)、(11)BEMS(Building and Energy Management System)、(12)FEMS(Factory Energy Management System)、(13)CEMS(Cluster Energy Management System)、(14)定置用蓄電システム、(15)蓄電池モジュール、(16)車載用蓄電池の残存価値評価方法、(17)EV(Electric Vehicle)用急速充電器・車両間通信、(18)EV用急速充電器用コネクタ、(19)EV用急速充電器本体設計、(20)車載用リチウムイオン2次電池安全性試験、(21)車両・普通充電インフラ間通信、(22)インフラ側からのEV用普通充電制御、(23)メーター用広域アクセス通信、(24)メーター用近距離アクセス通信、(25)AMIシステム用ガス計量部、(26)メーター通信部と上位システムとの認証方式。出典:経済産業省

世界で進む国際標準

昨年11月にオバマ大統領来日の際、日米クリーン・エネルギー技術アクションプランを策定。日米で、スマート・グリッド技術や施策に関連する共同活動分野を検討することになった。これらの活動には、本技術に関する国際標準や国際貿易のより迅速な進展を促進する可能性のある標準化協力、そして研究に反映し、スマートグリッド技術のより迅速な展開の促進に貢献する実証プロジェクトが含まれうる。
共同で研究したり、実証事件を行うことも重要だが、日米で国際標準を作り上げることがより以上に必要である。米国は10年1月にスマート・グリッドに関する標準化ロードマップである「NISTスマートグリッドの相互運用性に関する規格のフレームワーク及びロードマップ案(第1版)」を公開した。第1版では、早急に策定する必要のある25の規格と、今後検討が必要な50の規格を特定している。日米で調整し、欧州勢に対応していかなければならない。
ライバルとして手ごわいのが欧州だ。欧州は、EU統合の過程で、加盟国同士が自国の標準をEUの共通標準に採用してもらおうと、日々鍛えられたため、国際標準戦略については卓越したものを持っている。それに国の数が多いため、国際会議で投票数が優位に立てる。EUは09年の第三次EU電力自由化指令において、消費者への正確なエネルギー消費情報の提供を目的として、20年までに全需要家の80%以上に対してスマートメータを導入するという目標も策定された。09年11月には、スマートグリッド・タスクフォースが設置され、10年5月に共通ビジョンを取りまとめ、11年1月に戦略と規制に関する提言、同年5月には推進に向けたロードマップを策定予定である。
中国は米との間で「米中クリーン・エネルギー技術に関する共同イニシアティブ」を策定、スマート・グリッドの共同開発をうたっている。
欧州と言うライバルに対して、日本だけでは対立できないのは当然だ。日米中韓、欧州以外の国にも協力の輪を広げ、日本の国際標準を世界に発信するように努めていくのも一法かもしれない。