原油ドル決済の危機

原油決済通貨の変更

 先のブログで原油決済がドルからユーロに変わる可能性の話をした。決してあり得ない話ではないのである。

原油決済脱米ドルの動き

 原油決済を米ドル以外の通貨で行うとする動きは徐々に強まっている。

  1. マレーシアのマハティール首相は、03年6月のアジア石油ガス会議において、産油国は為替不安定化を回避するため「ドル表示の原油価格が見直される時にきている」として原油取引のユーロ化を示唆した。
  2. イラクフセイン政権は2000年11月6日をもって、原油取引きをドルからユーロ建てに切り換えた。米のイラク侵攻は、これが大きな原因となっているという見解もあるくらいだ。
  3. イランはユーロ高に伴い、原油の代金決済をユーロ建てで行うよう顧客に要請し、その結果として同国の原油輸出所得の約70%がユーロ建てとなった。07年7月、イランは、日本の石油元売り各社に原油代金を米ドル建てではなく円建てで決済するよう要請し、金融市場に波紋を投げかけたが、
  4. ロシアのメドベージェフはBRICsサミットに先立つ6月5日、中露両国が二国間貿易においてドルを使用せず自国通貨の使用を検討していることを明らかにした。また、ブラジル大統領ルーラも5月の訪中時、同様の見解を示した。6月16日、BRICsサミットにおいて、中国、ロシア、インド、ブラジル4カ国は、「安定的で予測可能でより多元的な国際通貨システム」が必要との認識で一致した。
原油決済通貨変更の現実性

 09年10月6日インディペンデント紙が、湾岸諸国の複数の当局者および中国のバンカーの話として、ロシアと中国、日本、ブラジル政府の閣僚と中銀当局者が、18年までに導入予定の決済通貨変更計画に向けて会合を持ったと報じた。このため一時ドルが急落。サウジアラビア通貨庁(中央銀行に相当)長官はすぐ、同報道を否定して、騒ぎは収まったが、「火のないところに煙は立たない」という諺もある。米国べったりに見られている日本がこのような会議に呼ばれるとは到底思えないが、日本を除いたほかの国なら、非公式にはこのような会合を持ったとしても不思議ではない。というのは以下のような事情があるからだ。

  1. 多くの産油国は,原油輸出をほぼ国営会社が管理している。だから国同士決めてしまえば、一斉のせいで、決済通貨を変更することもさほど難しいことではない。
  2. 中東産油国の場合、欧州とは距離的に近く物の貿易量も対米を上回る。それに中国も加われば、米国の存在価値はさらに小さくなる。
  3. 中東産油国は、自国通貨をドルに連動させるドルペック制を取っているため、ドル安は自国の通貨価値も下落させ、インフレをもたらす。
  4. ドル相場と原油相場は反比例するため、ドル安は原油高をもたらし、石油収入を上昇させる。しかしドル安のペースが原油価格上昇のスペースを上回れば、ドルと原油価格を切り離した方がよくなる。
  5. 世界の原油価格はニューヨーク商品取引所WTI先物価格を中心に成り立っている。米国のWTI先物価格が、欧州のBrent価格を決め,それがアジア地域のDubai価格を決め、それらの価格はすべてドル建てである。またそれに倣うその他の原油価格もすべてドル建て価格で値がついている。しかし、WTIは、米国南部テキサス州を中心に産出される原油の相場であり、この世界産出量1〜2%でしかない原油は、米の消費動向や、地域的要因で上下する。このため、取引量ではこれに勝るBrent市場、Dubai市場の価格とも齟齬を生じることもあり、最近はWTI先物価格の世界指標としての有効性に疑問さえもたれているhttp://www.gci-klug.jp/crudeoil/2009/02/23/004651.php
  6. 反米国ロシアは原油輸出を増やしており、世界の原油生産の重要なプレイヤーになっている。ロシア原油決済をユーロ建て、人民元建にすることで、その影響は大きい。