米財政赤字1兆4000億ドルで米ドルはどうなる

米政府財政赤字1兆4000億ドル

 米政府が10月16日発表した09会計年度の財政収支は、赤字額が過去最大の1兆4000億ドルに膨らんだ。GDP比では約11%に相当し、戦後最高水準となった。さらにFRB米国債を大量に買い取ったり、不動産担保証券を買い取ることで、米政府とFRBは二人三脚で、米経済にドルを溢れさせてきた。米株価はここしばらく好調を維持しているが、これだけ政府がお金をばらまいたのだから、当たり前と言えば当たり前だろう。
 しかしFRB国債買付もいつまでも続かない。市場も米財政のこれ以上の赤字は嫌気する。今後も米財政赤字が拡大すると見られれば、長期金利は上昇するし、米国債の引受け手が減り、国債の安定消化が進まなくなる。米は今借金ができなければ、財政が回らず、資金ショートを起こしてしまう。

ガイトナーが弁明

 ガイトナー米財務長官は16日、テレビのインタビューで、「過去1年間に多くの投資家が米債券に投資しドルが上昇したことは、米経済の運営に対する強い信頼感が依然として存在することを示している」「経済成長が回復すれば、長期債務を削減し、歳入に見合った国家運営に立ち返ることを確実にする必要がある」と話した。
 まさに米国債のセールスマンのような発言だ。「ここ1年間、米国債は売れ行きも好調だった。うちの財務内容が良いからだろう」「今は借金が積み上がっている状態だが、今後売上が回復すれば、財政支出も安定化させ、借金の解消に努める」というメッセージを、現在最大の米国債保有国である中国や、外貨準備高が積みあがる一方のブラジルなどに送りたかったのだろう。
 しかし、米国債の売れ行きが良かったと言っても、中国は長期国債を短期国債に切り替える動きを加速させている。これはまさに「米経済はここ1年は大丈夫だろうが、将来的には不安だ」という見方の表れで、米国債=米ドルは世界から十分の信任を得ているとは言えないのである。

ボルカー元FRB議長の危惧

 10月15日、オバマ米政権で経済再生諮問会議議長を務めるボルカー元FRB議長は、講演後の質疑応答で、FRBが米金融システムに注入した多額の流動性について、「現時点では」インフレ高進につながっていないが、いずれはインフレを加速させるとの見方を示した。「失業率が高止まりしていても、流動性の吸収を始める必要がある」「一見常識と思われる認識に反して行動する必要がある。待てば時機を逸する」と述べた。
 商品=コモディティ市場が高騰を始め、株価が好調を維持しているのも、米積極財政、金融緩和でだぶついたドルが、経費削減に走る産業界で消化しきれないため、投機に向かっているからではないか。ボルカー元FRB議長もそのあたりにあるのではないか。
 ただ、ボルカー元議長は中国等による国債買い入れのことを心配している訳ではない。というのも質疑応答で、「中国がドル建て資産を大幅に削減するとは思わない」「ユーロや円といったドルに代わる選択肢がさほど有望でないからだ」と指摘している。しかし、短期的にはそう言えても、長期的には逆ではないだろうか。
 というのも、現状基軸通貨が多元化の道を歩んでいるからである。ドルが基軸通貨でいられるのは、ドルが決済手段として使われるからであるが、米国が世界一払いっぷりのいい消費国でいられなくなった。消費の中心はアジア等に広がり、多極化する。ドル建ての原油決済を、ユーロ建てにしようという動きが出ているからだ。09年10月6日インディペンデント紙が、湾岸諸国の複数の当局者および中国のバンカーの話として、ロシアと中国、日本、ブラジル政府の閣僚と中銀当局者が、18年までに導入予定の決済通貨変更計画に向けて会合を持ったと報じた。このため一時ドルが急落。サウジアラビア通貨庁(中央銀行に相当)長官はすぐ、同報道を否定して、今ではガセネタ扱いになっているが、こうした報道が出ること自体、原油決済がドルからユーロに変わるのではないかとの疑念がくすぶっているからだ。原油決済がドルからユーロになったら、それこそドルが基軸通貨だなどと言っていられなくなるし、米国債も急落する。

外貨準備高

 IMFの発表によれば、世界の外貨準備高は4兆2700億ドル。米ドルが占める割合は62.8%である。ユーロ通貨導入のあった98年当時は70%を超えていたから、約10年間で3.2%比率を減らしたことになる。他方ユーロは同時期18%程度だったのが、現在は27.5%にまで拡大している。