公示地価下落 外資去ってJ-REIT散々

公示地価

 国交省が23日公表した09年の公示地価は、住宅地と商業地の全国平均がともに3年ぶりの下落。全国約2万8千の調査地点のうち、上昇は過去最低の23地点だけ。全国平均で、住宅地が前年比3.2%減、商業地が4.7%減。3大都市圏の下落率は、住宅地が3.5%、商業地が5.4%と、全国平均を上回った。
 東京23区の住宅地は、8.3%下落。特に港、渋谷区の下落幅が大きい。渋谷区大山町は全国の住宅地で最大の18.3%下落。同町は代々木上原駅の近く。代々木上原は渋谷では、松濤、広尾と並ぶ高級住宅街だ。商業地も8.1%下落。前年は17.3%上昇だから、上がった分反動も大きかったと言える。前年には20%超の上昇地点が多かった港区は、ほとんどの地点で2けた下落した。
 名古屋圏の下落もひどい。名古屋市中区栄4丁目は28.4%下落で、全国最大の下落率だった。私は一昨年名古屋出張の際、この近辺の三井アーバンホテルに泊まったが何の変哲もない商業地域だ。トヨタ効果で上がった反動だろうか。商業地の下落率全国10位のうち9地点は、名古屋市中心部だったという。
 外資が流れ込み、3大都市圏並みに地価が上昇していた札幌、仙台、福岡も、住宅地、商業地とも下落。特に仙台、福岡市の商業地はともに前年比9.6%も落ち込んだ。

かつてのバブル期と違い影響は限定的

 かつてのバブル期に比べれば、ここ数年のバブルはミニバブルと言われていたように、地価高騰は3大都市圏、ことにブランド的地域で局地的に生じており、上昇幅も小さく、日本経済への悪影響は限定的だ。ただ、景気が悪化する一方の現在、都心5区のオフィス空室率が12ヵ月連続で上昇している。
 空室率が増えれば、新規のテナントを求め賃料も下がる。AIGが東京都丸の内のAIGビルを近く売却するが、購入費用を試算するためのベースとなる賃料の坪単価が、一部業者の算定では4万円という。日本きっての一等地のビル賃料が坪4万円というのは驚きだ。
 賃料も今後も地価下落は続いていくのではないか。日本の土地資産額は約1250兆円。地価下落は国の富も減らしていく。そしてまだまだ不動産担保に頼るところの大きい銀行融資も、細りがちになろうし、銀行自身の自己資本率も下げて行くことになる(メガバンク3行の不動産担保総額は20兆円)。

地価下落の理由

 地価下落の主な理由は次の4点だ。

  1. 建築基準法改正によるマンション着工の遅れ
  2. 銀行が昨春以降、不動産向け融資に消極的
  3. 不動産ファンド(REIT)に多額の融資をしていた外資系金融機関やファンドの日本市場からの撤退
  4. 景気の後退によるリストラの進行
J-REITの影響

 都心部や一部地方都市の地価のミニバブルはことにJ-REIT、外資の影響が大きかった。上場REIT41銘柄が持つ不動産は総額で7兆円を超える。REIT(不動産投信)とは、投資家から資金を集めて「不動産」を購入し、そこから生じる賃料や売却益を投資家に配当する商品。銀行は不動産融資に対しては消極的姿勢に転じている。
 REITは、投資家からの出資と、銀行借入で不動産を購入している。仮にファンドの価値が2割あがったとする。銀行借り入れが70%、投資が30%だと、銀行には利息だけ払えばいいから、2割の価値上昇分の多くが投資家に利益として配分される。銀行借入を含むことでレバリッジを利かすことができ、ハイリスクハイリターンの投資が可能となる。多くのREITが5〜7割を銀行借入でまかなっているが、こうした銀行借入は返済期間が5年に限られている。このため5年たつと次の借換=リファイナンスが必要になってくるのだが、これが思うように行かなくなってくる。
 また投資家も公募の場合、私募の場合があるが、外資系の投資ファンドは逃げ足も早い。J-REITの運転資金が急速に不足し始めた。東証REIT指数は08年8月以降半値近くに下がっており、市場からの資金の回復も見込めない。
 「上場企業などによる不動産販売総額の3−5割を購入してきたREITが失速。06年に2兆円以上の国内不動産を購入していたREITの08年の取得額は1兆円程度にとどまった。借入金を圧縮するため、むしろREITが売り手に転じる例も出ている。(24日付日経朝刊)

私募ファンドは更なる苦境下に

 不動産ファンドにはREITのように一般大衆から資金を公募するものもあれば、機関投資家から資金を集める私募ファンドもある。REITの市場規模は7兆4000億円だが、この私募ファンドは13兆20000億円とその2倍近い規模がある。しかしこの私募ファンドはレバレッジを大きく利かす傾向があり、銀行借入が急速に細っているため、リファイナンスがさらに難しくなる。

仙台でも

 なお、以下は3月24日の河北新報ニュースである。
 今回のミニバブルの米サブプライム住宅ローン問題や昨年9月の「リーマンショック」で資金調達環境が悪化し、東京や外資系のファンドが相次いで撤退。一足早く地価の反落傾向を示していた三大都市圏に続き、仙台の限られた1等地をめぐる局地的なバブルも収束した格好だ。
 仙台市オフィスビルの平均空き室率は2月末現在で14.06%。名古屋や札幌、福岡などと比べても高い水準にあり、供給過剰感が強まっている。市内のJ―REIT(不動産投資信託)の取得額も08年、前年比で4分の1、取得総棟数は3分の1にとどまった。立地条件が不利な場所ではさらに地価下落が進行する可能性がある。

REITとは(09.5.11追加)

 REITとは「Real Estate Investment Trust=不動産投資信託」の略。本体は上場しているが、ペーパーカンパニーだ。実際の運用は非上場の資産運用会社が担当しており、その出資者をスポンサー企業と呼んでいる。資産有用会社の従業員の大半はスポンサー企業からの出向者だ。REITの上場時の発行価格は50万円程度だが、現在の株価は6万円から80万円と大きな差が付いている。3月末時点での時価総額は41銘柄で約2.5兆円だが、上位2銘柄で約3割、上位5銘柄で約5割を占める寡占状態にある。
(09.5.7日経より)

私募ファンドの銀行借入比率が低下

 機関投資家向けの私募不動産ファンドの借入金比率=レバレッジの低下が続いている。住信基礎研究所の09年7月時点のアンケート調査によると、運用会社が今後組成する不動産ファンドの借入金比率は平均で57.8%で、1年前に比べて7.3%低下した。07年には72%強あったが、低下が続いている。
 現在は海外の年金基金など安定運用志向の投資家しか資金の出し手がいないこと、借入金比率が7割を超えると金融機関がリスクを恐れ融資しないことが原因となっている(日経09.9.16)