ガイトナーのバッドバンク構想 吉と出るか凶と出るか

財務省バッドバンク正式発表

 ガイトナー米財務長官は2月10日、官民共同の銀行不良資産買取ファンドを設立、当初は5000億ドル、最終的には1兆ドルの資産買取を目指すと発表した。しかし相場は下落。具体的なプランが明らかにされなかったからだ。
 そして3月23日、再びガイトナーは、不良資産買い取り計画を正式発表した。この官民投資プログラム(PPIP)と呼ばれる。官民がそれぞれ750ないし1000億ドル、官民合わせて1500ないし2000億ドルという規模だ。仕組みは次のようなものだ。

  • 銀行Aの所有する額面100ドルの住宅ローン証券が入札にかけられるこの住宅ローン証券が84ドルで落札される。
  • 84ドルの落札価格のうち72ドルはFDIC(連邦預金保険公社)がノンリコースローンで資金を提供する。
  • 残りの12ドルはエクイティー部分で落札者がリスクを負うが、うち6ドルを政府がTARP資金から出資、残りの6ドルを民間の投資家が出資する
  • 若し購入した住宅ローン証券が後に額面まで戻れば、民間投資家は16$÷2=8$、8$−ローン金利の利益が得られる
ノンリコースローンとは

 住宅ローンを例にとろう。3000万円のローンを組んで同額のマンションを購入する。5年後、不動産が2000万円に値下がり、その時点でローンが2500万円残っている時点で、このローンを清算したとする。普通のローンだと不動産を売却しても500万円の借金が残る。しかしノンリコースローンだと、不動産を貸し手に取り上げられるが、負債はゼロになる。この場合貸し手が500万円損をすることになる。
 上の例に置き換えると、住宅が不良債権、損をする貸し手がFDICだ。ノンリコースローンは、よほど金利を高くしない限り、借り手に有利となる。

米国株式市場は急反発

 市場は政府の不良資産買取策を好感。米債券運用会社パシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー(PIMCO)や米投資会社のブラックロックが不良資産買い取り計画に参加する意向を表明したこともあり、23日の米国株式市場は急反発。ダウ工業株30種は497.48ドル(6.84%)高の7775.86ドル。シティグループは19.5%、バンカメは26%急伸するなど、金融株が広く買われた。

不良資産=有毒資産

 米国で不良資産はtoxic asset=有毒資産(政府はlegacy assetと呼んでいる)と言われている。不良資産が毒として銀行の体内に回り、破綻させるというイメージからだろう。この毒をどうやって銀行から取り除くからだが、難しいのがこの不良資産をどのように金銭評価するかだ。
 売買価格は民間投資家による入札で決まる。がそれが割安であれば金融機関も有毒資産の買取に応じないだろう。割高となれば、ファンドの損失ともなるが、それ以上に保証人のFDICが損失を蒙る。仮に正当な価格で買い取られるにしても、銀行が手を上げるかどうかも問題だ。そのことでバランスシートが悪化すれば、政府から公的資金を注入されるからだ。そうなれば現在の役員はその地位を保てるか分からないし、株主も自分の持ち分が目減りする。

一種の目くらましでは

 このやり方はある種のめくらましだ。先の100ドルの有毒資産を84ドルで買う例を上げたが、政府がとりあえず出資するのはたったの6ドル。6ドルで100ドルの不良資産を処理しようというのだ。ゴールドマン・サックス出身者らしい発想だ。
 国民の負担は当分750億ドルで済む。それに不良資産が高く売れれば、損をしないどころから得をする。しかし、84ドルの買値のうち、6ドルは官民ファンドを通じての政府の拠出、72ドルはFDICが保証、要するにリスクの9割以上を政府が負っている。相当なレバリッジだ。政府の思惑が外れて損失を生じるとすると、政府の損失は計り知れない。
金 融ギャンブルで危機に陥った米国経済を、金融ギャンブルで救おうとしているようにも見えるのだが。
※ 3月28日訂正
※ 3月23日ロイター情報BOX:米財務省による不良資産買い取りプランの詳細(私の稚拙なブログよりこちらの方が役に立ちますね。)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-37105920090323