ゆうちょ銀行第一生命に500億円 劣後ローン

ゆうちょ銀行 第一生命に500億円

ゆうちょ銀行は、2月28日、第一生命保険に対して劣後ローンを500億円供与する方向で最終調整に入った。3月中に正式決定する。第一生命が今年度中に調達を検討している劣後ローンは総額1800億円。劣後ローンの利回りは年3%前後になる見通し。(NIKKEI NET 09.3.1.10:33)

劣後ローン

 劣後ローンとは、他の債務よりも債務弁済の順位が劣る借入金で、その見返りとして利息が高く設定される。
 劣後ローンは最近DDSという形でよく行われるようになった。財務の悪化した企業のBS(バランスシート、貸借対照表)を良くするために、通常のローンを劣後ローンに切り替えるのだ。2月27日付「GM08年赤字3兆円」で紹介したデットエクイティスワップ(Debt Equity Swap=DES)と似ているが、DESが優先株への転換となる場合、定款変更が必要なため特別決議が必要になるため、経営側にとってDDSのほうが使い勝手が良い。
 今回のゆうちょ銀行の融資は、最初から劣後ローンとなっている。理由の第一は、第一生命保険が相互会社だからだ。相互会社とは生命保険会社だけに認められる法人形態である。相互会社は建前として非営利法人であり、生命保険の加入者を社員とする社団法人である。株式会社であれば新株を発行して資本増強を図ることができるが、相互会社の場合それができないのだ。
 理由の第二は、通常の融資では他人資本ということでソルベンシー・マージン比率が下がってしまうが、劣後ローンなら会計上自己資本の取り扱いにでき、同比率を引き上げることができるからである。第一生命は08年12月末時点で756%で、08年3月末比で254ポイント減となっている。株価の下落で同比率はさらに低下する。金融庁の早期是正措置の対象となる200%を上回ってはいるが、安全とは言えない。大和生命が破たん前の08年3月末の同比率は555%だったからだ。そのため、手遅れにならないうちに、資本を充実しておきたいということだろう。
 金融検査マニュアル別冊は、次の要件を満たす劣後ローンを、資本とみなしている。

  1. 劣後ローンへの転換(設定)時に存在する他の債務の完済された後でしか返済されない。
  2. 破綻時には、破綻時存在する全て他の債務に劣後する
  3. 債務者が金融機関に対して財務状況の開示を約していること、かつ、金融機関が債務者のキャッシュ・フローに対して一定の関与ができる権利(コベナンツ)を有していること。
  4. 資本的劣後ローンが前項その他の約定違反により、期限の利益を喪失した場合には、債務者が当該金融機関に有するすべての債務について、期限の利益を喪失すること。
かんぽの宿より大切なことがある

 今の国会では、やたら「かんぽ生命」の「かんぽの宿」が論議されているが、そんなことより、ゆうちょ銀行の国内金融において果たす役割と預金者保護のための仕組みを議論することの方がよほど重要だ。
ゆうちょ銀が、金融機関の資本増強に協力するのは初めてだ。ゆうちょ銀行は、かつては資金の運用先が厳しく限定されており、国債財務省への預託金がほとんどだった。この財務省への預託金が財政投融資(財投)と言われるものであり、財投は「寝てても国が利子を払ってくれる」システムだったため、ゆうちょ銀行は何ら融資努力をしなくても十分な収益が得られていたのである。しかし、01年から新規に財投に資金を回すことができなくなった。そして、ゆうちょ銀行も政府から独り立ちして自分で金を稼げと言われるようになったのである。
そのためゆうちょ銀行の資金運用先は次のように広げられていった。
07年12月19日 金利スワップシンジケートローン、株式売買が解禁
08年4月18日  住宅ローン代理販売、独自クレジット・カード業務、変額年金保
の販売が解禁
実際にも、ゆうちょ銀行は、08年5月12日からスルガ銀行の住宅ローン、個人ローンの代理店業務を、同月29日から住友生命など4社の変額年金保険の販売を、開始するようになった。
※ http://www.nochuri.co.jp/report/pdf/nri0809re6.pdf

郵政民営化が5年早ければゆうちょ銀行は破たんしていた可能性

 小泉さん自慢の郵政民営化であるが、そのマイナスの側面も十分考える必要がある。郵政民営化があと5年早くなっていたらどうなっていたか。株式やら外銀へのシンジケートローンやらをさかんにやって、その評価損で大変なことになっていたのではないか。
 米国経済の先兵竹中さんによって、ゆうちょに預けられていた国民の資産はボロボロになっていたかもしれない。
 確かに財投も、政府系金融によるじゃぶじゃぶ融資を可能にする、問題のある制度ではあったが、国債の引受機関としては頼りになる存在だ。ゆうちょ資金のなんと4分の3で国債が買われているのである。国債を買い支えする貴重な存在だ。これだけ財政赤字があって、ゆうちょ銀行ほど頼りになる存在はないはずだ。国債の償還のためにも、新たな国債の引き受け手は必要である。政府は、ゆうちょ銀行の後釜として個人向け国債を考えているようだが、中期的には政府の財政悪化が確実な現在、今のように個人向け国債の売れ行きが好調さを保てるか疑問だ。(この辺りはFROM菊池英博)

鳩山総務相もはしゃぎ過ぎ

 鳩山邦夫総務相は、衆院予算委員会で「ゆうちょ銀行が中小企業に融資することは非常に意義深い」と言っているが、「行け行けどんどん」が過ぎる。かんぽの宿で人気が出て、いい気になり過ぎてはいないか。対中小企業融資は、貸し倒れリスクがあるし、中小企業の場合、公認会計士が監査意見を書く訳ではないから、決算書類もどこまで信じていいか分からない。とにかく経営者を見る目、その事業の行く末を見る目が不可欠なのである。ではそれがあるかと言えば、どう考えてもないだろう。今まで、国債を買って、財投をやってと、資金運用に関するノウハウはなくてもよかった組織に、中小企業の経営を見ることのできる人間はいない。素人がいきなり冬山に登るようなものだ。
 スコアリングとかに頼って融資審査をするとしたら、新銀行東京の二の舞である。
 与謝野さんとよく話してから発言してほしい。