英国EU離脱に思う

英国のEU離脱。世の中には「まさか」という坂があるんですね。
移民問題の影響が大きかったと言われていますが、他の欧州国家のように「移民に仕事を奪われる」というより、「移民に福祉を奪われる」という危機感の方が強かったようです。このことは、世代別の投票結果の数字にも表れています。18〜24歳の73%、25〜34歳の62%が残留に投票。他方、45〜54歳を境に離脱が多くなり、65歳以上は60%が離脱に投票しています。要は移民が入ってくることにより、社会福祉のパイが小さくなることを嫌った、社会福祉の受け手である高齢者が離脱派をリードしたという見方が一つとして成り立ちます。
英国の社会福祉の始祖ベバリッジが強調したのも自助。蟻のようにコツコツと保険料を支払い、これから年金をもらおうとしている高齢者には、沢山のキリギリスがやってきて、自分たちのパイを奪っているという実感があったのではないでしょうか。他方、若者からすれば、福祉の支え手が多ければ多いほど、自分たちの負担は軽くなると考えたのではないでしょうか。
さらには、英国的な自助の思想と、欧州的な配分の思想との対立という側面もあったのではないかもしれません。自助を重視する高齢者層に比べ、若年層は、EU的な理想主義に親しみ、配分を重視しているのではないか、さらにはプロテスタント的生活観とカソリック的生活観の相克があるのではないか、という疑問も生じます。
日経とかテレ東の経済番組は、英国離脱問題を、経済や、為替に対する影響がどうのとかという視点でしか論じてきませんでしたが、もっと文化論、社会論、政治論からの分析が必要だったのではないかということを痛感します。
ところで、テレ東の21日のモーニング・サテライトの中の「リーダーの栞」で、日銀総裁の黒田さんはアジア人初のノーベル経済学賞受賞者アマルティア・センの「合理的な愚か者」を紹介していました。セン氏はこの本で「全ての人間は自己利益だけを追求する」という前提で成り立っていた従来の経済学に異を唱え、個人の道徳など、経済的に非合理的な要素を加えるべきと提唱しているようです。黒田さんは、この本を紹介することで離脱派の勝利を予言していたのでしょうか。まさかね。