コストコ設計士有罪判決 実際は無罪の可能性も

2011年3月の東日本大震災で,コストコ多摩境店で立体駐車場のスロープが崩落し8人が死傷した事件で,2月8日,東京地裁立川支部は構造設計の担当者で業務上過失致死傷の罪に問われた一級建築士に有罪判決を下した。
この設計士は「設計通りなら崩落は起きなかった」と無罪を主張し,判決も設計に誤りはなかったことを認めたが,「被告には構造設計と異なる施工がなされないよう、設計の総責任者に“確実に伝える”義務があった」として有罪と判断した。
設計士は「設計監理」することが仕事で,設計をすればおしまいということではない。設計通り工事がされているかを監理(管理ではない)することまでが仕事なのである。この仕組みが分かっていないと,この判決は理解できない。
建築士法は「工事監理」を「建築士の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することをいう。」と定義している(2条1項8号)。監理者が現場に足を運ぶ回数は、平均月2回から3回と言われている。新聞報道だけではよく分からないが。このあたりの不備が指摘されたのかもしれない。
しかし,今回の判決に,もう一つ気になるポイントがある。この事件の被告人が「構造計算の担当者」とされていることだ。設計士は「構造計算」をし,その上で具体的な設計をするのであるが,通常それを一人の設計士がするということはない。1級建築士の9割以上が「意匠(デザイン)」の専門家で,「構造」の専門家は1割にも満たない(肌勘ですが)。通常,Aが設計をし,Bがその設計の構造計算をし構造耐力上不足があれば,設計の変更を指示し,そうしたチェックを経た上でAが設計図書を完成したのだすると,Aは無罪である。
平成18年12月改正建築士法により、構造設計一級建築士制度が創設され、一定規模以上の建築物の構造設計については、構造設計一級建築士が自ら設計を行うか若しくは構造設計一級建築士に構造関係規定への適合性の確認を受けることが義務付けられた。
検察は,前任の設計士と設計の総責任者を不起訴にしたが、裁判所はこちらの人間の方が責任がむしろ重かったと言っているが,さらに進んで,被設計の総責任者こそが有罪で,この被告人は無罪というのが正しいのかもしれない(判決文が公表されていないのでこれ以上は断言できない)。