解雇問題の金銭解決を可能とする法改正に向けJILPTが研究結果を発表

「日本再興戦略」改訂2014(平成26年6月24日閣議決定)を受け,独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が調査していた金銭解決システムに関する調査につき,以下のURLのとおり6月15日報道発表がなされました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000088763.html

裁判所の協力の下、調査研究を担当するJILPT職員が、裁判所内で、労働関係民事訴訟及び労働審判記録を閲覧の上、持参したパソコンに収集すべきデータを入力するという手法で全量調査を行っており、データ項目は次の通りです。受理日、終了日、労働者の性別、雇用形態、派遣労働者の相手方、役職、入職日、事案発生日、月額賃金、企業規模(従業員数)、労組の有無、弁護士の有無(労働者側、使用者側)、事案の種類、請求内容、請求金額、解決金額、金銭以外の事項、終了区分(調停か審判か)。
次にJILPTの研究担当者が、厚生労働省が選定した4地方裁判所において2013 年に調停又は審判で終局した労働審判の記録及び和解で終局した労働関係民事訴訟の記録を閲覧し、持参したパソコンにあらかじめ作成したエクセルファイルに、必要なデータのみを入力しました。
こうした膨大な手間をもとに、まとめられたのが以下の研究結果です。
解決期間は、労働局あっせんが1〜2月未満が60.8%と圧倒的に多く、平均値は1.6 月、中央値は1.4 月です。労働審判に係る期間は、2〜3月未満が43.4%と半数近く、あっせんよりも若干時間がかかっているもの、ほとんど大部分が6か月以内に手続が終了しています。平均値は2.3カ月、中央値は2.1カ月です。
これに対し最終的に和解で解決した訴訟は手続自体にかなり長い期間を要しており、1 年以上が40.9%と最も多く、次いで6〜12月未満の34.7%であって、短期間に解決したものはほとんどありません。平均値は10.8 月、中央値は9.3 月です。
専門家の利用は、あっせんは社労士、弁護士合わせて5%程度、逆に労働審判の場合は95%が弁護士を利用しています。あっせんでは、いじめ・嫌がらせ事案が2008 年度の22.7%から2012 年度は31.3%と急増。労働者に何らかのメンタルヘルス上の問題がある事案が2008 年度の3.0%から2012 年度には12.4%と激増しています。メンタルヘルス検定試験で出そうなデータですね。
これに対して、労働審判で95.8%、裁判上の和解で91.7%と、圧倒的大部分が雇用終了事案となっています。そのうちでも解雇事案が、労働審判で75.4%、裁判上の和解で70.5%となっている。注目されるのは、雇用終了事案の2割(全体の15%)が割増賃金(残業代)請求を含んでいるということです。
請求金額についても、労働局あっせんと労働審判・訴訟で大きく違います。労働局あっせんにおいては、請求金額は50〜200万円未満に集中し、この両者で4 割を超えます。平均値は1,701,712円ですが、中央値は600,000円です(一部の高額案件が平均額を挙げていると思われます)。
労働審判ではその中でも最も低い階層である100〜200 万円未満に3分の1以上が集中しているのに対し、裁判上の和解では分布が高額の方に大きく広がり、500〜1000万円未満に3割強が集まっています。労働審判の請求額の平均値は3,936,294円、中央値は2,600,000円ですが、和解の請求額の平均値は8,622,570円、中央値は5,286,333円です。
そして重要なのが次の調査結果です。
あっせんについては、終了区分が「合意成立」である324件のうち、合意内容が金銭解決であるのは313件であり、96.6%に上ります。撤回・取消、すなわち復職と考えられる解決に合意したものも、4件、1.2%に過ぎないが存在している。この4 件について若干詳しく見ると、雇用終了を撤回したものは1 件のみで、それも一時的なものに過ぎず、雇用終了から恒久的に復職するケースは一つもありません。
労働審判についても、金銭解決が434件、96.0%であり、ほとんどを占めています。労働審判で撤回・取消という解決に至ったのはたった2件で、その内容を見ると、一つは「直用非正規の解雇事案、解決後1 年弱雇用するとの調停成立。」、もう一つは「労働者が退職意思表示を撤回した事案、当該労働者を再雇用するとの調停成立。」というものです。使用者側からの雇用終了を撤回したものは1 件のみで、それも期限付きであり、やはり雇用終了から恒久的に復職するケースは見られません。裁判上の和解については、金銭解決が174件、90.2%とやや少なく、その分撤回・取消が12件、6.2%とやや増えますが、もっともそのうち7件は同一事案の共同原告であって、実質的には6件に過ぎません。すなわち、労働事件では、大体労働者側が解雇無効を訴えて訴訟するも、圧倒的多数が金銭解決で終わっているのです。
ここではまず、各労働紛争解決制度別に、解決金額が労働者の賃金月額の何か月分に相当する額であるかを「月分」単位で見ていく。労働局あっせんについては、半数近くの43.6%が1か月分未満であることがわかる。平均値は1.6 か月分であるが、中央値は1.1 か月分です。解決金は1 か月分強を中心に分布しているのがあっせんの実態です。これに対して労働審判においては、2〜3カ月未満から5〜6か月分未満までなだらかに分布し、6〜9か月分未満も多数存在している。平均値は6.3か月分、中央値は4.4か月分であるということからすると、4〜5か月分を中心にその前後に広く分布しているのが労働審判の実態と言えます。さらに裁判上の和解についてみると、平均値は11.3 か月分、中央値は6.8 か月分です。

月収別に解決金額の分布を見たのが次の結果です(平均値は無視し、中央値で示します。)。
労働局あっせんの場合、月収別にみると
 10 万円未満   1.7 か月分
 10-20 万円未満 1.1 か月分
 20-50 万円未満 0.9 か月分
と緩やかな反比例関係が認められます。
「労働局あっせんにおいては、解決金額を決める時に、何か月分というよりも実額タームで考える傾向があることを反映しているように思われる。」というのが報告者の分析です。

労働審判の場合、月収別にみると、
 10 万円未満   4.9 か月分
 10-20 万円未満  4.2 か月分
 20-50 万円未満  4.3 か月分
 50-100 万円未満 6.5 か月分
 100 万円以上   4.1 か月分
と、50-100万円未満が月収表示の解決金額も高くなっています。
報告者は「労働審判においては、解決金額を決める時に、実額タームよりは何か月分」という発想で考える傾向にあることを反映しているのではないかと分析しています。
裁判上の和解の場合
 10 万円未満 7.0 か月分
 10-20 万円未満 4.7 か月分
 20-50 万円未満 7.0 か月分
 50-100 万円未満 6.7か月分
 100 万円以上  10.0 か月分
と、ほとんど何の法則性も見いだせません。