外れ馬券 経費と認められるには厚い壁

3月10日に、はずれ馬券も所得税法上の経費になるとの最高裁判決が出ました。もっとも、はずれ馬券が経費として認められるのは、かなり特殊な場合で、一般人でこれに相当する例はあまりないのではと思われるので、注意を要します。
この裁判は、ある男性が競馬による巨額の収入を得ていたのに、その収入を申告しなかったとして、脱税で起訴された事案です。検察は競馬で儲けた金から当たり馬券の購入費だけの控除を認めなかったため、男性は外れ馬券の購入費の控除も認めるべきだとして争っていました。
この裁判では、当たり馬券の払戻金が、一時所得に当たるか、雑所得に当たるかが、争点となりました。雑所得であれば必要経費の控除が広く認められますが、一時所得だと「直接に要した費用」の控除しか認められないからです。雑所得となれば、外れ馬券も必要経費となりますが、一時所得となると、当たり馬券の購入費しか控除が認められません。
所得税法34条1項によると,一時所得とは,「利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち,」「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で」「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」をいいます。通常、馬券購入行為を「営利を目的とする継続的行為」と解するのは無理です。しかし、この男性は、独自に競馬ソフトを開発し、中央競馬の全ての競馬場のほとんどのレースについて,数年以上にわたって大量かつ網羅的に,一日当たり数百万円から数千万円の馬券を購入し続けていました。そうして、平成19年に約1億円,平成20年に約2600万円,平成21年に約1300万円の利益を上げていたのです。
最高裁は、男のこうした馬券購入行為を「被告人が馬券を自動的に購入するソフトを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ,一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえる」と評価したのです。通常人でこの域に達している人はそうそういないでしょう。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/934/084934_hanrei.pdf