いわゆる従軍慰安婦は性的奴隷か

 従軍慰安婦は米国では単純に性的奴隷=SEX SLAVEと言われている。では従軍慰安婦は性的奴隷なのか否か。それに対する答えはYESだ。
 「朝鮮の業者が農家で女子を買い集め、日本軍の駐屯地の近くで買春宿を開いていたのであって、軍が強制的に徴用した訳ではない」から性的奴隷ではないと主張する人がいる。それは真実だろう(日本の業者もいたはずだが)。しかし、だからと言ってそうして集められた娼婦が性的奴隷でないとは言えないのである。
 こういった女性は、女衒(ぜげん)と呼ばれる人買いブローカーが、貧窮した農家から、親に金を渡して、娘を連れ帰る。法的には、売春宿の代理人としてブローカーが親に金を貸す。例えば100万円を、利息30%で、月2万円ずつ返還する内容の契約をする。貧窮した農家は当然そんな金は返済することができない。そこで娘が売春宿に奉公し(売春し)その給金で親の借金を返済する。返済が終わるまでは逃げられない。逃げれば売春宿が親のところに行って、残った借金を返せと押しかけるからである(当然やくざを使う)。このような契約形態を芸娼妓契約という。金銭消費契約と雇用契約(請負契約)が不可分に結びついているのだ。
 彼女らは稼ぎの半分は売春宿の主人にとられる。では、残り半分を貯金できるかというと、そうはいかない。主人に対して、食事代、部屋代、着物代等で高額の支払いをしなければならず、残りの半分もほとんどが相殺されてしまうからだ。奴隷禁止条約には、こうした借金のかたに、娘を奉公にだすことも奴隷とされ、禁止されている。だから、国際法的には、慰安婦が奴隷であることは否定しようがない。
 こうしたことは従軍慰安婦に限られたことではなく、日本では広く行われていた。親に孝を尽くすのは当然という儒教観がこうした悪弊を放置してきた。さらには、こうした売春婦が性欲の防波堤となることで、性犯罪もなくなるし、婦女の貞操も守られるという社会政策的意義まで与えられていたのである。このため国はこうした売春制度を否定するどころか、管理した。赤線と言って、この地域は売春を許可するという線引きがなされ、店主には抱えている売春婦に性病検査をい受けさせることが義務付けられた。このように、日本では売春についても国家管理が進んでいたが、このように国がその監督下で売春を許容する制度を公娼制度という。
軍の駐屯地の近くの売春宿も同様に軍が性病検査を主人に義務付けたり、営業許可権を持つ等していたはずであり、だとすれば軍が売春を管理していたことになる。
 軍が強制的に徴収したという事実はないのだから、これは否定すべきだが、だからといって、軍の監督下で性的奴隷に対する買春行為が行われていた事実は否定できない。
 したがって、世界に向かって、従軍慰安婦=性的奴隷など存在しないと訴えても意味がない。それでは「彼女らは性的奴隷であり、軍が一部管理していたことは事実だが、彼女らは業者が連れてきたのであって軍が徴収した訳ではない」と言うべきか。それもしない方がい。やはり、決して褒められるべき行為ではないからだ。
 それでは「彼女らを性的奴隷にしたのは女衒連中で、俺たちは性的奴隷に金を払って遊んだだけだ。」というのと変わらない。この理屈は「児童買春」に置き換えて考えれば分かりやすいだろう。「俺は確かに児童買春をしたが、その児童は業者が親に金をやって連れてきたものだ。」と叫んでも、誰も道徳的な人間だとは思ってくれないからだ。
 だからと言って韓国に性的奴隷を非難されたくない。韓国では1895年の甲午改革までは奴婢制度が認められていた。奴婢には当たり前のように性的奴隷がいたのである。奴婢はその子も奴婢であり、決して奴婢の身分から逃れられなかった。アメリカのグレンデール市だって、慰安婦像を設置したが、南北戦争までは南部は奴隷制度を維持していた。だから韓国が従軍慰安婦問題を叫ぶのは図々しいこと限りないし、かつて黒人奴隷をレイプしていたアメリカの一都市が従軍慰安婦像を置いて、過去の性的奴隷を騒ぎ立てるのも、身勝手にすぎる(お前たち日本人は70年前までそんなことをやっていたのか、俺たち米国人は150年前にやめているぞ、なんて言えないでしょう。)。
1998年8月国連人権委員会差別防止・少数者保護小委員会で採択されたゲイ・マクドゥーガル特別報告者の「武力紛争下の組織的強姦・性奴隷制および奴隷制類似慣行に関する最終報告書」という文書がある。本文での主な対象は、旧ユーゴスラビアでの戦争とルワンダ虐殺であるが、「附属文書」として日本の慰安婦が取り上げられている。
附属文書は、有名なクマラスワミ報告書を参考にしていると思われる。報告書では慰安所を「強姦所」と呼び、軍と政府の両方が直接アジア中のレイプセンターの設立に関わり、多くが11〜20歳であり、生き延びたのは25%だったと書いている、という。
強制連行については問題として取り上げず、「日本軍の要請で慰安所を経営したもの、および利益を得た民間人のした行為に責任がある」とした上で、日本政府については「慰安婦への被害を防止できず加害者を処罰できなかったこと自体に責任がある」との見方を示している。
私が恐れるのは、従軍慰安婦についての国内の議論が、強制連行はしていない、という議論を超えて、慰安婦は預金を持っていたから性的奴隷とは言えないという議論になってしまうことだ。預金を持っていようといまいと借金のかたに売春をやらされている以上、それは性的奴隷と言わざるを得ない。