全柔連問題の法的問題性

30日の全柔連の臨時理事会で、上村春樹会長が、藤田、佐藤両副会長、小野沢専務理事が辞意を表明した。執行部の発言に山下理事が執行部だけでなく、自分も含めた理事全員辞任すべきと意見を述べたが、大勢にはならなかった。
理事会後開かれた評議員会で、上村会長を含めた現職23人の理事に対する解任動議の採決が行われたが、上村会長の解任については、賛成が16人、反対が39人、棄権が2人。理事に対する解任は賛成が0人だった。
(評)
全柔連は、内閣府公益認定等委員会から認定を受けて公益財団法人となっている。
公益認定等委員会は7月23日、上村会長を呼び、8月末までに責任の所在を明らかにするとともに組織改革を求める勧告書を手渡した。公益認定法に基づく勧告第1号であり、極めて不名誉なことと言える。上村会長は「心からおわび申し上げます」と謝罪しながら、改革実行のため10月までは会長職にとどまる意向を示唆した。
なぜ「10月」なのか。この点、6月10日国際柔道連盟ビゼール会長が急遽来日し都内で会見し、上村会長の続投を100%支持していると援護射撃したことが想起される。9月7日のIOC総会で東京での五輪開催が決定されれば、再度ビゼール会長に援護射撃も貰う等して、10月の辞任もうやむやになると考えたのではないか。この人のここまでの厚顔無恥ぶりを見るとそうも疑ってしまう。
しかし、問題はそんなレベルの話ではない。10月までの続投を言った上村会長に対し、公益認定員会高野事務局長も呆れ果てて、次のように言っている。
「改革の道筋をつけなければいけないとおっしゃっても、果たしてそれが国民一般から見て信頼回復の道と見えるのか。ご自身の責任はどこへ行ったのか」「外から見て信頼が確保できる形で体制をつくり直してください。そのために何をしたらいいのか、そこまで言わせないでほしい」「一般法人法に定められた職務上の義務に違反している疑いさえある」。
公益法人認定法は第5条の1号で「公益目的事業を行うことを主たる目的とするものであること」、2号で「公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有するものであること」を認定要件の一つに定めている。今回の勧告に対して対応が不十分であれば、命令がなされ、さらには公益認定を取り消されることにもなりかない。公益認定が取り消されれば、今ある財産は全て処分し公益のための支出に充て、新たに出資金を得て一般残第法人として一から出直す必要がある。
勧告書は安倍晋三首相名で出されているが、特に問題になっているのが助成金の不正受給問題。不正受給した助成金6055万円を日本スポーツ振興センターに速やかに返還し、全柔連に生じた損害を責任者に賠償請求を検討することも求めていた。
この不正受給問題とは、全柔連が、日本スポーツ振興センターから支給された助成金を、指導実態のない人物などにも支給し、最終報告書では2007年〜2012年に受給した延べ63人のうち、27人分3620万円が不正受給だったとされているもの。
さらに問題なのは、組織ぐるみであること、無資格者に支給されたお金が全柔連に還元され、それがプールされ、簿外で支出されていたということだ。その簿外の支出には海外指導者の接待飲食費も含まれている(その接待先にはビゼール会長も含まれているんでしょうか)。
この助成金は、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(通称適正化法)」でいう「間接補助金等」に該当するのではないかと思うのだが、そうなると「偽りその他不正の手段により…間接補助金等の交付…を受けた者は、5年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(29条1項)」「第11条の規定に違反して補助金等の他の用途への使用又は間接補助金等の他の用途への使用をした者は、3年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(30条)」「法人の代表者…が、その法人…の業務に関し、前3条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、当該法人に対し各本条の罰金刑を科する。(32条)」
また、適正化法とは別に、背任罪の成立の可能性もある(適正化法違反と背任罪は観念的競合)。
そして、この事実は全柔連が「公益目的事業を行うことを主たる目的とするものであること」の要件を満たさないのではないかとの疑問を持たせる。ガイドラインによれば、「助成の選考が公正に行われることになっているか。」「 専門家など選考に適切な者が関与しているか。」公益目的事業のチェックポイントとされており、これにひっかるのではないかと思われるからだ(本件ではセンターが補助金等の交付主体であり、全柔連が補助事業者であるため、ガイドラインが直接適用なるものではないが、その補助金は指導者に支給されるものとなっており、交付主体が支給対象者を選考、支給する業務を実質代行しているものとも言え、同条の趣旨からすれば、認定要件に反しているように思われる)。また「公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有するものであること」のうち、「経理的基礎(経理処理、財産管理の適正性)」があるかについても重大な疑念がある。ガイドラインでは「経理処理、財産管理の適正性」とは、「法人の財産の管理、運用について理事、監事が適切に関与する体制がとられていること」「開示情報や行政庁への提出資料の基礎となる十分な会計帳簿を備え付けていること」「法人の支出に使途不明金がないこと、会計帳簿に虚偽の記載がないことその他の不適正な経理を行わないこと」を意味するとされ、執行部は上記第3の点において、理事は上記第1の点において、明らかに適性を欠いていると思われるからだ。