支店を特定しなくても預金の差押が可能

東京高裁で画期的な判決

 平成23年10月26日、東京高裁で、ある画期的な判決が出た。古い話になるが、この判例が金融法務事情の3月10日号で初めて紹介されたのだから仕方ない。
 同判決は、預金最大店舗指定方式と呼ばれるやり方で銀行預金を差押えることを認めたのである。預金最大店舗指定方式とは「複数の店舗に預金債権があるときは、預金債権額合計の最も大きな店舗の預金債権を対象とする。なお、預金債権合計のもっとも大きな店舗が複数あるときは、そのうち支店番号の最も若い店舗の預金債権を対象とする。」と記載して債権差し押さえするやり方である。

これまでの実務

 銀行預金を差押える場合、銀行名を特定するだけでは足りず、支店名も特定する必要がある。例えば「A銀行の預金」というだけでは足りず、「A銀行B支店」の預金を差押え対象としなければならない(支店名個別指定方式)。

全店舗指定方式の破たん

 ところが、最近「銀行の全支店」の預金を対象とし、最も支店番号の若い支店から順に差押えるとするやり方で差押えを行う例が多くなってきた。しかし、実務上は認められていない。最高裁平成23年9月20日付判決で、「民事執行規則133条2項の求める差押債権の特定とは,債権差押命令の送達を受けた第三債務者において,直ちにとはいえないまでも,差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものでなければならないと解するのが相当であり,この要請を満たさない債権差押命令の申立ては,差押債権の特定を欠き不適法というべきである」とし、上記のような全店舗を対象とした差押えは「本件申立ては,大規模な金融機関である第三債務者らの全ての店舗を対象として順位付けをし,先順位の店舗の預貯金債権の額が差押債権額に満たないときは,順次予備的に後順位の店舗の預貯金債権を差押債権とする旨の差押えを求めるものであり,各第三債務者において,先順位の店舗の預貯金債権の全てについて,その存否及び先行の差押え又は仮差押えの有無,定期預金,普通預金等の種別,差押命令送達時点での残高等を調査して,差押えの効力が生ずる預貯金債権の総額を把握する作業が完了しない限り,後順位の店舗の預貯金債権に差押えの効力が生ずるか否かが判明しないのであるから,本件申立てにおける差押債権の表示は,送達を受けた第三債務者において上記の程度に速やかに確実に差し押えられた債権を識別することができるものであるということはできない。そうすると,本件申立ては,差押債権の特定を欠き不適法というべきである。」として、かかる差押えを無効とした。

東京高裁判決の判決理由

 今回の預金最大店舗指定方式によった場合、支店名個別指定方式に比べ「本店において預金最大店舗を確定する作業」と「債権差押命令の写しを当該店舗にファックスで転送する作業」が加わるだけである。前者の作業は、メガバンクにとってはシステム上大きな負担ではなく、後者も大きな負担とは言えないとして、上記結論を導いている。同申立において申立人代理人弁護士は、弁護士会照会を銀行宛行ったが、回答が得られなかったことも理由にしており、預金最大店舗指定方式によって債権差押をする場合は、弁護士会照会も行った方がいいだろう。
 ただ、この点は補強的な理由づけでしかなく、実際弁護士会照会をすることで判決に影響を及ぼす理由が、今一つ明確でない。

現場の裁判官の反応

 ただ、現場の裁判官の反応は今イチのようだ。東京地裁21部のある裁判官も、この判決には否定的であった。