宅配業者を装った時効債権の取立

多重債務者に宅配便の不在通知票を装ったはがきが届き、問い合わせ後、長年にわたって督促さえなかった借金の返済を迫られる例が相次いでいる、との新聞報道があった。
読売オンラインは次のような事例を例示する。
「お荷物を預かっています」。一昨年5月、大阪市西成区の無職男性(65)宅に宅配便の不在通知票のような紙片が入っていた。
品目は「生もの」。男性は親戚からの荷物と思い込み、通知票の連絡先に電話すると、「荷物を調べて連絡する」と告げられた。
ところが翌日、兵庫県内の貸金業者から「昔の債権を預かっている」と電話があった。1983年に京都府内の信販会社から借りた20万円分について、利息を含め97万円を返済するよう求める内容だった。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/osaka/news/20120303-OYT8T00023.htm
このような事例は少なくとも5年前からある。
そもそもこの業者が債権を本当に買い取っているのかが疑問だ。
実際買い取っているとしても、それを債務者に主張するには、債務者に対し債権譲受人が債権譲渡通知を送付している必要がある(特例法による登記及び譲受通知による対抗要件のありうることに注意)
仮に、譲渡人による債権譲渡通知があったとして、消滅時効を主張しうることを知っておく必要がある。業者は、和解の約束をしたことで、信義則上、時効援用権を喪失したと主張するであろうが、かかる事案で信義則を言いうるかは疑問だ。
以前取り扱った事案では、私が業者に時効援用通知を送り、かつ業者に電話で取り立て中止を求めたところ、業者が罵詈雑言を並べ立て、恫喝まで行ってきた。後日訴訟すると、「こちらは和解書を取り交わして払ってもらえると安心していたら、相手方の事務所が弁護士ではなく事務員が時効だと怒鳴り立ててきた。弁護士を出してくれとこちらは頼んだが、全く応じてくれず、支払を拒絶されたまま」と、被害者を装う始末。この件では前記の罵詈雑言をテープに全部録音していたため、このテープを証拠に出した。
「弁護士に対してさえ、このような恫喝的な言動をする業者が、本人に対してどのような威圧的態度を取るかは明らかだろう」「債務者を恫喝して、和解書を締結した業者が、信義則を理由として時効援用権の喪失を主張しえない」と主張し、事なきを得た。