給与債権が代位弁済された場合についての最高裁判決

 平成23年11月22日、破産法上の財団債権を代位弁済した者は、財団債権者としての地位を有するとの最高裁第3小法廷判決が出た。
 事案は従業員の給料債権を代位弁済した者(判文上明らかでないが、おそらくは労働者健康福祉機構=旧労働福祉事業団)が、破産管財人に対して財団債権者として弁済を求めた事案である。
 会社が破産した場合、債権者はその債権額に応じて、配当を受けることになるが、給料債権や税金は別格扱いで、配当手続によることなく随時回収することが可能である。こういった債権を財団債権と呼んでいる。
 ところで、破産した会社の従業員は、雇用保険に加入していれば(未加入でも遡及加入すれば)労働者健康福祉機構が給料の8割を破産した会社の代わりに支払ってくれる。労働福祉事業団は、破産会社に対する代わって支払ったことによる「求償債権」と、従業員が有していた「給与債権」の両方を取得する。といっても2倍の金額を取得する訳ではない。あくまで求償金額の範囲で給与債権を行使できるに過ぎない。
 給与債権は財団債権となるが、代弁した機構は財団債権者として優先的に弁済を受けられるのであろうか。これが争点である。前記最高裁判決の原審の大阪高裁判決は「給料債権権は、労働者の当面の生活
維持のために必要不可欠のものであって確実に弁済されるのが望ましいことから、労働債権の保護という政策目的に基づき創設された財団債権であり、これが代位弁済された場合、上記政策目的は達成されたことになる。」として、機構の優先的地位を否定した。
 これに対して最高裁は「弁済による代位の制度は、代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するために、法の規定により弁済によって消滅すべきはずの原債権及びその担保権を代位弁済者に移転させ、代位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを認める制度であり原債権を求償権を確保するための一種の担保として機能させることをその趣旨とするものである。この制度趣旨に鑑みれば、求償権を実体法上行使し得る限り、これを確保す
るために原債権を行使することができ、求償権の行使が倒産手続による制約を受けるとしても、当該手続における原債権の行使自体が制約されていない以上、原債権の行使が求償権と同様の制約を受けるものではないと解するのが相当である。」として、機構の優先的地位を肯定したのである。