契約締結上の過失についての最高裁判決

4月22日付最高裁判決

 当事者の一方Aが重要な事実を秘して契約に勧誘し、結果当該契約により他方当事者Bが損害を被った。地裁、高裁は、Aの契約締結上の過失により、Bが契約を締結した結果、Bが損害を被ったとして、債務不履行責任を肯定。BのAに対する損害賠償請求を認めた。
 しかし最高裁は「一方当事者が信義則上の説明義務に違反したために,相手方が本来であれば締結しなかったはずの契約を締結するに至り,損害を被った場合には,後に締結された契約は,上記説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられるのであって,上記説明義務をもって上記契約に基づいて生じた義務であるということは,それを契約上の本来的な債務というか付随義務というかにかかわらず,一種の背理であるといわざるを得ないからである。」として、本件は不法行為にであり、3年の時効期間を経過しているとし、高裁判決を破棄し、Bの請求を棄却した(平成23年4月22日第2小法廷)。

最高裁判決の理屈

 ちょっと分かりにくいかもしれないが、このように言えば分かりやすいかもしれない。
 本件は「契約締結上の注意義務が果たされていれば、契約をしなかった」というのであるから、契約締結上の注意義務を果たさなかったことを理由に契約責任を問うのは背理である。不法行為は成立しても、債務不履行は成立しないというのがその判決理由だ。
 本件で、債務不履行と判断されれば時効は10年、不法行為と判断されれば時効は3年。Bは不法行為で請求したら時効になるため、債務不履行として請求したのである。

判例の射程距離

 本判決のロジックから言えば、「『必ず火を通してください』と注意をすることなく」という注意書きをつけることなく、生肉を販売し、生で食べた購入者が食中毒が起きた」という場合は、このロジックが当てはまらないため、債務不履行となるだろう。したがって、この判決をもって、最高裁が「契約締結上の過失」法理を否定したということではない。

理屈としては美しいが

 確かに、最高裁判決の言う通り、地裁、高裁判決の理屈は背理かもしれない。確かに最高裁の言う理屈は、理屈自体をとって言えば美しいが、血が通った判決のようには思われない。理屈も大事だが、こういった事案は、契約責任として10年の時効という重い責任を課すべきか、それとも不法行為として軽い責任を負わすべきか、という観点で判決してほしい。単に被害者保護の観点に立て、というのではない。契約締結協議と言う、信義則に支配された場面での、重要な事実の秘匿は、契約上の責任として重い責任を負わされるのではないかと考えるからだ。