菅の口にチャックは付けられないのか 「IMF次期専務理事、欧州でなくても」との菅発言

菅首相の失言再び

 菅直人は5月24日、首相官邸IMFの次期専務理事について、「どの地域出身でなければならないとは特に考えていない」と述べ、欧州出身者にこだわらず幅広く人選すべきだとの認識を示した。首相は「世界銀行は米国から、IMFは欧州から(トップが)出ることが多かったが、必ずしも固定的な権利と考える必要はない」と指摘した。

IMF、世銀が意味するもの

 IMF世界銀行とも、ブレトンウッズ体制の下、米国が世界経済を支配する道具として作られた機関だ。第1次、第2次と2度にわたる大戦の結果、欧州は疲弊し、戦後復興は米国の支援なしには行えないことになった。そもそも欧州のナチスからの解放も米国なしでは不可能であった。
 このためイギリスは経済的覇権を米国に引渡し、国際金融の中心は英国のシティから米国のNYに移り、基軸通貨も英ポンドから米ドルになり、米国が世界の警官の地位に就いた。ただ米国も欧州の名誉を保つために、世銀のトップは米国が、IMFのトップは欧州が出すことになった。とは言っても、IMFの実権は米国が握っている。IMFは出資比率で15%以上の国々の反対があると大きな組織変更はできないのだが、米国は単独で15%以上の出資を行っているため、米国のみがVETO=拒否権を持った存在なのである。
 サミット(現G8)には、IMF専務理事が出席し、声明の経済的部分についてはIMFが事実上とりまとめを行っている。こうしてサミットもIMFという機関を通じ、米国による世界経済支配の道具になっている。

BRICSの動き

 中国、ブラジル、ロシア、インド、南アの新興5カ国を代表するIMF理事は、24日、欧州政府幹部がIMFの次期専務理事を欧州から出すべきだと主張していることに懸念を示す、共同声明を発表した。BRICSは、これまでもIMFの出資割合を経済的実態に即して、新興国にもっと多く配分するよう求めてきたり、IMFの債券を引き受けてきたり、中国は世界の覇権取得を狙って、人民元の国際化を目指し、IMFの合成通貨SDRの構成要素に人民元を入れるよう働き掛けたり、してきた。そうした時期にBRICSに助け船を出すような発言を菅さんはしてしまったのである。

菅さんの頭の中はどうなっているのか

 確かに、IMFのトップである専務理事を欧州から出すことに、合理性は無い。世界機関である以上、世界各国に開かれているべきであるし、新興国の国際経済における比重の増大傾向を見るときは、今後新興国にもトップにつく道が与えらるべきと考えるのが正論である。しかしIMFが、極めて政治的存在であり、米国による世界支配の装置の一つであることを考えれば、正論より政治的判断が優先する。菅さんはそのあたりを何にも考えずに、例の格好つけ、思い付きで言ってしまったように思える。
 欧米各首脳とも菅さんの頭の中身については十分知っているっだろうから、大人の対応をするだろうし、今ころ財務省、外務省が裏で弁明に追われていることだろう。