死んだ子の年を数えるが如きだが

圧力弁にフィルターなくベントが遅れる

 原子格納容器内で高まった圧力を逃がすために、弁を開けて、格納容器内の蒸気を外に逃すのがベント(vento)と呼ばれる作業だが、「放射性物質の外部放出を懸念し、東電が格納容器内のガスの排出をためらったことで水素爆発を招いた」との分析もある(4月23日付ウォールストリート・ジャーナル電子版)。
 しかし、このような問題は欧州の原発では起こり得ない話だった。欧州の原発は、放射性物質を取り除くフィルターを備えているために、圧力が高まった場合、放射性物質の拡散を危惧することなくベントを行うことができるからだ。しかし日本ではそうはならなかった。東電も政府も「原子力は安全と地元に説明してきた手前、そのような過酷事故を前提にした安全対策はできない。」と考えてきたからだ。

13台あった非常用発電機中、1台だけあった空冷式が生き残る

 非常電源についても同じことが言える。福島第1原発には13台の非常用発電機があったが、12台は津波により冠水し壊れたが、1台だけ無事だった。他は水冷式のため、津波で動かなくなったが、この1台は空冷式だったからだ。この発電機による電気が5号機、6号機に提供され、この二つの原子炉に限っては深刻な事故は免れた。しかしなぜ空冷式が一台しかなかったのか。これも「5.7mを超える津波は来ない。」という想定に縛られたからだ。これを超える津波が有り得るとしたら、同じ立地条件にある原子炉6基全てを止めなければならなくなる。

経産省幹部の弁明

 5月9日付日経記事に経産省幹部の弁明が載っていた。いわく「当事者が最悪の事態を想定すること自体が背徳的とみなされる。そんな可能性まで頭に描いているのかと糾弾されてしまう。」。日経は「技術への過信」としているが、違うのではないか。太平洋戦争の旧軍の発想と同じであろう。現場で、作戦の無謀さに疑問を挟めば「臆病者」と罵倒される。そのため合理性を無視した作戦がまかり通り、あたら救えた命も失われた。それと同じではないか。

仏との違い

 仏原子力庁と準国有企業アレバ社は、全仏各地の原発について、炉心溶融やテロ攻撃、核攻撃、放射性物質の大量放出など考えられる限りの「最悪の事態」を想定し、05年から模擬実験を繰り返してきたという。農作物の出荷停止や廃棄、農家への補償など、原発からの距離に応じた行動計画が予め練られているという。