中電の菅要請受諾をどう見る

浜岡原発運転停止

 菅首相が、地震による危険性を理由に停止を要請していた浜岡原発だが、中部電力は5月9日の臨時取締役会で、浜岡原発の運転を全面的に停止すると決めた。
 浜岡原発の原子炉1、2号機はすでに廃炉になっており、3号機は定期点検中、4、5号機だけ運転中だったが、3号機の運転再開は見送り、4、5号機は運転を停止することになった。中電は、防波壁の設置を進め、地域住民らに安全策を説明したうえで運転を再開したいとしている。

表向きの理由

 なぜ浜岡原発なのか、理由はいくつかある。第1に東海地震の予想震源域のど真ん中に建っており、同地震がいつ起こってもおかしくないこと、第2に津波対策が不十分なこと、第3に地盤が脆弱なこと、第4に活断層上に建っていることなどが挙げられている。
 菅首相は第1を理由に上げ、他の原発とは違うとし、第2の津波対策等を十分講じた上で再開するとしている。確かに東海地震が今後30年間に起こる確率は87%と言われている。しかも、それは06年1月現在であるので、それから5年経った現在、発生確率は若干上がっている。また、同原発はプレート境界の真上に建っている。しかも、境界面は地下わずか10〜20kmという浅いところにあるのだ。
 しかし、浜岡原発が怖いのは第1、第2の理由だけではない。他の二つの理由も上げるのが筋だろう。ただ、それを言うと他の原子炉も止めざるを得なくなるので、言わなかっただけだ。
 「通商産業省資源エネルギー庁原子力発電所の耐震安全性』原子力発電技術機構,1995.」によれば、原子力発電所地震対策の柱となるのが、耐震安全性の確保であり、次のような対策がとられてきた、としている。

  1. 徹底した地質調査を行い、地震の原因となる活断層を避ける。
  2. 原子力発電所の重要な機器・建物等は、地震による揺れが小さい(地震による揺れが表層地盤に比べ2分の1から3分の1程度の)岩盤の上に直接固定する。
  3. 原子力発電所の耐震設計をする際に、周辺の活断層や過去に発生した地震などを詳細に調査し、考えられる最大の地震に耐えられるようにする。
  4. 想定した最大の地震が発生したときの重要な機器・建物等の複雑な揺れを大型コンピュータで解析し、その安全性を確認する。

http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0515.pdf 4頁
 少なくとも、浜岡原発がこの要件を満たしているかどうかが検討されなければならない。

津波対策の不備

 浜岡原発は海まで最短距離で100mしかない。その間に高さ10〜15m(低いところを津波は乗り越えるから実質10mの高さとみて良い)の砂丘があるだけだ。中電は、1854年の安政東海地震の痕跡高などから、敷地付近の津波高は満潮でも6mと想定し、それに十分耐えられるとしてきた。しかし、砂丘と防波堤では津波への耐性が全く違う。砂丘だと、波が砂丘の傾斜に沿って盛り上がるようにして進むからだ。スマトラ沖では34.9mの、93年奥尻では32mの丘を津波が乗り越えている。中電は今回高さ15mの堤防を設けるとしているが、やはり砂丘では足りないということは十分自覚していたのだろう。少なくとも15mの堤防ができるまで運転停止するのは当然と言える。

岩盤の脆弱

 中電は「浜岡原発は固い地盤まで掘り下げ、そこへ直接基礎を作っているので東海地震クラスの地震がきても充分に耐えられる」と主張している。この岩盤とやら、数百万年から千万年前に海底に堆積した相良層と呼ばれる堆積軟岩で、泥岩及び砂岩の互層を成している。土と岩石の中間的な領域にある岩石を軟岩と言い、「堅い地盤」とは言い難い。
浜岡原発が立地している基盤については、表層地盤なみの軟弱地盤であり、「地震による揺れが表層地盤に比べ2 分の1 から3 分の1 程度」が全く成立しないとの指摘もある(桜井淳「日本の原発はまだ一度も大地震を経験したことがない」『エコノミスト』82 巻67 号,2004.12.7,pp.30-31.)。

5号炉

09年8月11日早朝に、震度6弱を観測した地震で、浜岡原発5号機の建屋の地下2階で426ガルの揺れの強さを観測した。
揺れの最大値は、1号機、2号機が109ガル、3号機が147ガル、4号機が163ガルで、5号機だけ突出している。原子力保安院は「今回の地震による浜岡原子力発電所5号機で観測された最大加速度(426ガル)は、耐震指針に基づき設定された基準地震動S2(600ガル)による基礎版上の応答値(最大加速度:582ガル)及び新耐震指針に基づき事業者により設定された基準地震動Ss(800ガル)による基礎版上の応答値(最大加速度:701ガル)を下回っている。」として安全性を強調している。
http://kinkyu.nisa.go.jp/oshirase/2009/08/post-1.html
しかし、09年の地震はわずかM6.6。東海地震ではM8が想定されていて、M6.6のざっと300倍になる。
出典http://c3plamo.slyip.com/blog/archives/2009/08/post_1423.html
中部電力は、浜岡原子力発電所の原子炉全てについて、1000 ガルまで耐えられるよう耐震補強工事に着手しているが、なぜ、その段階まで補強するのか、科学的な説明は行われておらず、却って国民の不安を強めるだけという批判もある。
 静岡県に生産拠点が集中しているスズキの会長が、浜岡原発の停止を高く評価した。大阪府橋下徹知事は8日、政府が中部電力浜岡原発静岡県)の全面停止を要請したことに関し、民放番組で「政治家しかできない大英断」と評価。「府民全体で協力し、関西電力の電力を余らせて中部に送る」と述べた。
 橋下知事は4月末、日本原子力発電が計画中の敦賀原発福井県)3、4号機を念頭に原発の新規建設や運転延長 を止める構想を打ち出していたが「目標は何でもいい。浜岡原発を止めるために協力する方針に切り替える」と 述べた。(共同)。

冷却水確保に不安

 浜岡原発の取水塔は、敷地前面の沖合約600m、水深約10mの地点に設置されている。同原発の立地する御前崎は波が荒く、波が安定している沖合にしか、取水塔を設置できなかったのである。各原子炉は、沖合600m先から原子炉までをつなぐ給水トンネルを使って、水を引き、冷却水に使っている。今回の福島第一原発の事故で冷却水の確保の重要性が改めて認識された。いざM8以上の東海地震が起こった場合、この600mの給水パイプは一か所も破裂しないというのか。もし破裂したとしたら、冷却水をどこから確保するのだろうか。中電はこの疑問に対して、いかなる回答をするのか。

中電は運転停止をどう思っているのか

 浜岡原発にもし重大事故が起きた場合、賠償額は福島第1原発の比ではない。かと言って、今まで「安全だ、安全だ」と言ってきた原子炉を、「実は安全でない。」なとど言うことは到底できない。中電は、コストの高い火力発電で発電せざるを得なくなり、決算も赤字になると表面苦渋の決断のように言っているが、本音はどうであろう。賠償金の負担で、会社国有化の瀬戸際に立たされた東電を見て「自分のところも、あぁなったら、もうお終まいだ」と感じているのではないか。そうであれば、今回の運転停止も歓迎している可能性がある。