トモダチ作戦が持つもう一つの意味

トモダチ作戦

 米軍は、東日本大震災について、トモダチ作戦(Operation Tomodachi)を実施。同作戦では、米海軍・海兵隊・空軍の18,000人を超える将兵が参加している。米海軍は10隻の艦艇を派遣。虎の子の空母ロナルド・レーガンまでが参加した(同空母は4月4日に任務終了)。ありがたい話であるが、このオペレーションを、米政府が人道的見地により好意で行ったものと、単純に受け取るのはお人よしに過ぎよう。これは集団的自衛権行使のための予行演習としての意味を持っているからである。何も「米軍の援助を断れ」と言っている訳ではないが、外交の基本はギブ&テイク。そのことを意識すべきだと言いたいだけである。

集団的自衛権とは

 前置きとして集団的自衛権について述べたい。集団的自衛権とは、「同盟関係にある他国が外国から攻撃された場合、自国への攻撃と同視して、わが国も自衛権を行使して外国に反撃できる」というものだが、憲法集団的自衛権は認められないというのが政府見解である(昭和56年5月29日政府答弁書)。日米安保条約第5条にも「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。 」とあり、あくまで「日本国の施政下にある領域(in the territories under the administration of Japan)」に対する武力攻撃が対象となっている。

05年10月、集団的防衛権への第1歩

 しかし、元外務省国際情報局長、元防衛大学教授の孫崎享氏は、既に、この部分が2005年10月29日に町村外務大臣、大野防衛庁長官、ライス国務長官ラムズフェルド国防長官との間で結ばれた「日米同盟:未来のための変革と再編」という外交文書によって、改変されていると主張している。同文書は、日経に全文が紹介されているが、孫崎氏は、この文書を解説した日本のマスコミはほとんどなく、何らの議論もなかったことを問題視している。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/henkaku_saihen.htmlに同文書の仮訳があるが、同仮訳によると次の一文がある。
(日米)双方は、国際的な安全保障環境の改善の分野における役割・任務・能力に関連するいくつかの基本的考え方を以下のとおり確認した。

  • 地域及び世界における共通の戦略目標を達成するため、国際的な安全保障環境を改善する上での二国間協力は、同盟の重要な要素となった。この目的のため、日本及び米国は、それぞれの能力に基づいて適切な貢献を行うとともに、実効的な態勢を確立するための必要な措置をとる。
  • 迅速かつ実効的な対応のためには柔軟な能力が必要である。緊密な日米の二国間協力及び政策調整は、これに資する。第三国との間で行われるものを含む定期的な演習によって、このような能力を向上し得る。
  • 自衛隊及び米軍は、国際的な安全保障環境を改善するための国際的な活動に寄与するため、他国との協力を強化する。

 同氏はこの文中にある「共通の戦略目標」「国際的な安全保障環境」がキーワードだとする。共通の戦略目標と言っても、日米の力関係からして、米国が設定した戦略目標に組みこまれざるを得ない。国際的な安全保障環境というのが、米国の言う国際テロとの戦いを含むものである。要するに、この文書は、自衛隊を、同時多発テロ以来の米政府の対国際テロ戦略の「駒」にしようというものだ。
 米国のフランシス・フクヤマは、一時期ネオコンの代表的論客であったが、途中ブッシュ批判に転じた「ブッシュ政権の行おうとしていることは予防戦争である。この予防戦争は、何カ月、何年先の脅威の除去を目指しており、それは国家主権尊重と既存の政府と協力するというウェストファリア条約以来の西欧安全保障の根幹概念を捨てた」と述べている。ウェストファリア条約以来、「誰が正しいかということをめぐって戦争はしない。互いの国の主権を尊重しよう。」という国際協力の西欧的外交観念を根本から覆すものだと指摘しているのだ。

トモダチ作戦は有事作戦の準備

 孫崎氏は、ジアラ元国防総省日本部長の「新ガイドラインのPKO、人道支援、災害救助活動は何れもグローバルな日米協力を視野において頻繁に低緊張度の作戦行動を共同でやる。これは有事作戦の準備であって、調整手続は有事に適用可能である。」との発言を紹介している。
 以上の文章は孫崎氏が、2010年9月13日に日弁連憲法委員会全体会議講演で行われたものを基に書いたものである(日弁連発行「自由と正義」11年4月号)。この後不幸にして東日本大震災があり、米軍のトモダチ作戦が行われたのであるが、孫崎氏の主張を念頭に見れば、単なる善意の表れではないことがわかるだろう。
 東日本大震災における、このオペレーションで、日米両軍は、任務を分担、米空母を含む共同運用を行えたことは、今後の有事の対応について大きな財産となったはずだ。空母は本来先制攻撃でこそ力を発揮するものであり、震災がらみでない時期に空母を含めたここまでの日米共同演習を行えば、中国からも懸念の意思表示が示されただろう。中国に気兼ねなく思いのとおりの演習を行えたというのも大きな成果だったろう。