新日鉄、住友金属合併 公取委に望むこと

両社合併発表

新日本製鉄住友金属工業は2月3日、12年10月をめどに合併すると発表した。合併が実現すれば、欧州のアルセロール・ミタルに次ぐ世界2位の鉄鋼メーカーに浮上する。

日本鉄鋼メーカーの地位低下

 新日鉄は70年代から90年代にかけては、世界最大の鉄鋼メーカーだったが、現在世界1位は合併により規模を拡大してきたアルセロール・ミタル、2位から4位は中国メーカー、5位は新日鉄が技術提供して育て上げた韓国のポスコ新日鉄は現在世界6位だ。鉄は重いし、その製品単価からして、自動車用の鋼板に使うような高級鋼材は別として、地産地消が基本。そのため、製造業の隆盛がそのまま製鉄業の隆盛につながる。その意味で、中国メーカーが生産量を伸ばしてきたのは当然といえる。韓国も製造業が伸びたのと、ポスコ以外の有力製鉄メーカーがいないことが、5位になれた理由だろう。

事前相談制度

 新日鉄住友金属工業は、公取委に事前相談制度を利用することなく、今回の合併を決めたことが驚きをもって迎えられている。合併した後で公取委から独禁法違反とされることを避けるため、事前相談制度というのがある。相談する企業側も書面を提出、資料を添付し、公取委側も書面で回答する。銀行ローンの仮審査のようなものと考えてもらえればいい。しかし、今回新日鉄はそれをやらなかった。それは新日鉄はこれまでも、こうした事前相談を公取委にしても、公取委が「これを出せ、あれを出せ」で、審査が終わらず、経営統合が進まなかったからだ。

合併審査基準は国内か世界か

 日本企業の弱点の一つに、国内市場で競合業者があるため、ここで体力を奪われ、海外に進出する元気がないことにある。また、世界の市場を相手にするのに、規模の大きさがものをいうが、国内でシェアを分け合うことで規模が大きくなれないことがある。当然、企業としては合併により企業規模の拡大を目指すがそのとき障害になっているのが独禁法だ。独占が進むと、独占企業が市場価格を自由に支配できるため、消費者の利益が害される。そのため市場の独占をもたらすような合併は禁じられる。しかし、グローバル化を迎え、実態にあわない部分が出てきている。たとえば家電。国内の一企業が、テレビの生産を独占して、価格を吊り上げようと思っても、そうなれば海外から安い家電が入ってくるので、価格操作はかなわない。そのため公取委も最近は、国内の市場だけでなく、世界市場の占有の程度を重視するようになった(但し、「事案ごとの実態に応じて、一定の取引分野の地理的範囲を画定する。ただ、単に、国際的に競争をしている製品であることをもって直ちに国境を越えて取引分野が画定されるわけではない。」というのが公取委の考え方。鉄製品の場合は、地産地消の程度が高いので、家電ほど簡単には行かないのも事実である。他方、製鉄業のような成熟した素材産業において、新規参入組の参加の余地がないため、その点は合併容認にプラスとなる。HHIという数値基準もあって、、)。
 それでも、日本の役所のやることのため、万事が融通が利かず、石橋を叩き過ぎて、なかなか事前相談でもOKが出ない。そうして、公取委が「ああだ、こうだ」言っている間に企業の競争力はどんどん衰えていく。石橋を叩くのもいいが、叩きすぎて橋が壊れてしまってはどうにもならないだろう。
今回の新日鉄住友金属工業の合併についても、公取委の英断が期待される。また公取委に「リスクをとれ」と、政府が背中を押してやることも必要だろう。そうでないと、平成の開国で海外に打って出るどころか、逆に黒船によって焼け野原にされることになりかねない。

企業別組合による障害

以上は日経も十分言っているところだが、日経が言っていない「わが国で合併が難しい理由」がもう一つある。それは、日本の労働組合企業別組合であることだ。欧米の労働組合は業界ごとの横断的な労働組合だ。その典型が米国の全米自動車労組。GM、フォード、クライスラーごとに組合があるわけではなく、3社を横断する一つの組合がある。企業ごとに組合があって、企業ごとに給与体系や給与水準が違うことが、合併への大きな障害となる。世界6位の新日鉄が世界23位の住友金属工業を吸収合併することであれば、ともかく、2位3位企業の合併はハードルが高い。

公取委が新指針

公取委は2月24日、「合併審査の事前相談制度を廃止し、法定審査の1回限りで合併の可否を判断する」「そのため、企業の予見性を確保するため、ケースを明確に例示する。」との方針をかためた。合併基準は当然世界史シエアを考慮したものとなる。(日経11.2.24)

公取委 国際シェア 「東アジア」基準で判断も

 公取委は6月14日、企業合併の新たな基準を発表した。企業の国際競争力強化を重視し、商品が国境を越えて取引されている場合は、「世界市場」「東アジア市場」でのシェアを重視して判断すると方針を明記した。
 要するに日中韓3カ国で同じような価格で取引されていて、需要家が各国のメーカーから調達先を選んでいる貿易商品の場合は東アジアのシェアを重視して判断するという。
 なお公取委は市場規模が縮小している場合は合併を認めやすくすることも明記した。市場が縮小し、生産余力がある商品の場合は、需要家が他の企業に調達先を乗り換えることが容易だからだ。
(11.6.15日経)