アイルランドで終われば良いのだが

EU,IMFの支援が本決まり

 欧州連合(EU)と国際通貨基金IMF)は来週にアイルランドに対する支援策を発表する見通しだという。来週アイルランドの4カ年の財政再建策の発表があるので、アイルランド政府に積極的に財政再建に取り組むよう圧力をかけるため、このタイミングとなったのだろう。
 アイルランド政府はギリギリまで、EU、IMFの支援を要請しなかった。これらの支援を受ければ、アイルランド政府は財政の自由を奪われ、箸の下げ下ろしにもEUとIMFの許可が必要になる。いわば無条件降伏の状態におかれるからだ。

アイルランド危機の原因

 アイルランドの10年の財政赤字のGDP比率は32%。日本の財政に換算すれば150兆円という規模だ。コントロール不可能と言って良い。ギリシャ危機は放漫財政が原因だが、アイルランド危機は銀行部門が原因だ。アイルランドでは住宅バブルが崩壊。15四半期連続で住宅価格が下落し、銀行の不良資産が増加し、公的資金の注入が増大。その結果、アイルランド国債への信任問題にまで波及している。09年のアイルランドの銀行総資産はGDPの約8倍有り、到底政府だけでは抱えきれない規模になっているからだ。

今そこにある危機

 EUは、既にIMF融資も含めて総額7500億ユーロの緊急融資制度を整えており、各政府とも今春のギリシャ危機の時ほどの危機感は無い。しかしそれは、足元の話に過ぎない。その先にはポルトガル問題がある。
 アナリストの間では、今年になって国家財政をめぐる懸念から国債利回りが大きく上昇しているポルトガルが同国に続くとの見方が根強くあるからだ。ポルトガル政府は、財政再建計画は市場の信認を得ており、今後も市場で十分資金調達可能だ、との立場だが、現実は厳しい。ポルトガルは11月17日実施した12カ月物短期国債入札で、7億5000万ユーロを調達したが、平均落札利回りは4.813%。前回の3.260%から大幅に上がっている。応札倍率も、前回は2.2倍だったところ、今回は1.8倍だった。
 市場は、アイルランドの次はポルトガルと見ている。

さらにはスペイン

 11月19日付の日経で、ある英国シンクタンクの主任アナリストの「スペインへの危機の連鎖を防ぐ必要がある。ECBは、FRBや日銀のように国債購入を増やし、金融緩和を続けるべきだ。量的緩和はリスクも伴うが、今は何もしないリスクの方が大きい。」とのインタビュー記事が目を引いた。
 スペインは近年高成長を続けてきたが、それは公共投資と住宅ブームが牽引車だった。欧州で使用されるセメントの半分はスペインによるものだ、と言われるほどだ。不動産業と建設業が成長エンジンだったのである。私は08年のGWの時期にスペインに旅行したが、郊外に地下鉄が延び、新築マンションがあちこちで建設されているのを見てびっくりした。ユーロ高もあって、物価も高い。私が回ったのは、マドリッドバルセロナだけだったが、地方ではリゾートマンションブームが巻き起こっていたという。かつての日本と全く同じで、バブルのにおいがぷんぷんしていた。スペインから帰国して、ネット検索すると、スペインの住宅の4分の1が空き屋だとか、若年層が40年、50年ローンを組んで不動産を買っていると聞いて、またびっくりした。
 しかしリーマンショック以降、スペインの不動産バブルははじけた。不動産、建設業という成長エンジンをなくしたスペインがこれまで通りの経済成長率を保てる訳が無い。財政赤字は拡大し、PIIGS(ポルトガル、イタリア、アイルランドギリシャ、スペイン)の一画に数えられた。
 雇用が特に悪い。07年4月には8%だった失業率が9月には20.8%にまで上昇している。因みに他のPIIGSを見ると、ポルトガルが10.6%、アイルランドが14.1%、イタリアが8.3%、ギリシャが12.2%と断トツの最下位だ。EUの中でもとトップで、失業率がスペインに近い国はラトビアリトアニアくらいしかない。
 ムーディーズは9月30日、スペイン国債の格付けを「Aaa」から「Aa1」へ1段階引き下げている。格下げの主な理由は、増大した債務の削減のために今後は大規模な財政緊縮が見込まれ、中期的な経済成長率が大幅に低下すると予想されたためだ。
 スペイン政府は財政再建のため、公務員の給与カットや、付加価値税増税を積極的に打ち出しているし、民間銀行の不良債権の処理、カハと呼ばれる地方銀行の統廃合、基金整備なども進めているが、経済成長のエンジンが見つからない以上、税収の悪化がさらに財政を悪化させないか心配だ。
 スペインのGDPは1.6兆ドル、EUで4位の経済規模だ。2、3000億ドルのアイルランドギリシャとはケタが違う。スペインに連鎖が及ぶとなると、タダでは済まない。
 前述のアナリストは言う。「ギリシャアイルランドポルトガルへの支援にはEU分の支援枠(5000億ユーロ)の半分2500億ユーロはかかるだろう。危機がスペインにまで波及すると支援枠の増額が必要となるかもしれない。その場合自ら大きな財政赤字を抱えているイタリアなどは分担できるだろうか。」

カギを握るのはドイツ、フランス

 経済支援に一番批判的なのがドイツだ。ドイツはギリシャ危機のときも支援に二の足、三の足を踏み、市場を苛立たせた。今回も、このタイミングで2013年以降に財政危機があれば、債務再編(ヘアカット=国債の強制減額)が必要だと発言し、ユーロ安をもたらした。ドイツはユーロ安を武器に輸出を増やしこの世の春を謳歌しているが、暖かさが春では足りず、夏の陽気が必要だと言うのだろうか。ドイツほどユーロの世話になっている国は無い。もしドイツがマルク体制をとっていれば、一段の通貨高でここまで輸出は伸びないからだ。これだけ世話になっているくせに、わがまま過ぎるのではないか。「自分たちが汗水たらし手稼いだ金を、借金で遊んで暮らしていた連中に援助してやるのは、納得できない。うちも犠牲を払うのだから、金融機関こそ本来の自己責任原則に戻ってリスクを取れ。」というのがドイツの主張。明快ではあるが、市場に喧嘩を売っているとしか思えない。ドイツのメルケルの発言に、最近はフランスまでもが乗っかってきた。EU内の2大国の今後の対応が、カギを握るだろう.

ストレステストへの疑念

 ところで思い起こされるのは、10年7月23日にあった、欧州銀行監督委員会(CEBS)によるEU主要91金融機関のストレステスト結果発表である。10年から11年にかけて最も悲観的なシナリオとなった場合でも、中核的自己資本(Tier1)比率6%を下回るのは7銀行だけで、アイルランド銀行とアライド・アイリッシュ銀行は合格した。アイルランド銀行は6月の29億ユーロの増資によって、アライド・アイリッシュ銀は年内に調達を予定している74億ユーロを資本の算定に含めたため、合格となった。 しかし、その後4カ月もしないうちに両行とも損失が膨らみ、公的資金を注入したアイルランド政府自体が市場から不信任を突きつけられてしまった。
 欧州のストレステスト結果については、多くのアナリストがリスクの想定が甘すぎると批判。結果自体に疑問符が付けられていたが、その批判の正しさが立証された形だ。そうなると当時合格となったEU内の82行も本当に大丈夫なのかということになる。

スペイン短期証券入札低調

 11月23日付ロイターによると、23日の3カ月物と6カ月物の政府短期証券入札で、調達額は目標としていた30億─40億ユーロの下限近くに落ち着いた。しかし、落札利回りは3カ月物が1.743%と10月26日に行われた前回入札時の0.951%から大幅に上昇。6カ月物も2.111%と前回の1.285%から上昇した。