米は八方ふさがり

米は総スカン

 10月18日のブログで「そもそも、米国は中国のことを為替操作国だというが、米国だって人のことは言えない。財政支出だ、量的緩和だと、とにかくドル札を印刷しまくり、そうした金が世界にばらまかれる。ドルを刷れば刷るほどドル安になるのが道理だ。」と書いたが、案の定G20でも総スカンだった。

猛反発を呼んだQE2

 この動きを決定的にしたのがQE2。QE2とは、FRB量的緩和の第2段のことだ。FRBは11月3日、インフレ率をFRBの責務と整合する水準に確実に誘導する手段として、6000億ドルもの国債の追加購入を開始する方針を表明した。この規模は市場の予想を上回るものだった。
 FRB議長のバーナンキは「デフレを克服するには、ヘリコプターから現金をばら撒けば良い」と発言し、「ヘリコプターベン」とあだ名されたほどの人物。バーナンキはかつてデフレ下の日本について、日銀はもっと市場に現金をぶちこむべきだと主張し、「ケチャップを買っても良い」と言ったのも有名。バーナンキからすれば6000億ドルなど安いくらいだろう。
 しかし、海外からすれば、アメリカのやっていることはドル安政策そのもの。しかも度を越している。オバマが輸出倍増政策をとっているが、共和党に下院選で大敗し、最早財政支出は増やせない。2年後には自分の大統領選挙もある。予算も使わず、手っ取り早く輸出を増やすにはドルを安くするに限る。FRBはQE2はインフレターゲットでやっているだけで、ドル安を目指しているのではない、と消火に必死だが、紙幣をばらまけば結果的にドルが安くなるのは当然だから、誰も耳を貸さない。
 前FRB議長のグリースパンまでが、QE2はドル安政策だとしてFRBを批判。共和党も、小さな政府の観点から、FRBの多額の国債購入を批判。
 共和党首脳は「ドルの将来の強さに重大な不確実性をもたらす」との公開書簡をFRBに送っている。この背後には、FRB批判で全米に蔓延する茶会党の存在がある。FRBは今や、内外から集中砲火を浴びていると言って良い。
 バーナンキ議長は11月17日上院銀行委員会の超党派議員と面談、追加緩和が向こう2年で70〜100万人の雇用増につながるとの試算を披露したという。焦燥感に駆られているのだろう。

ブラジル、そして、ドイツも

 人民元の上昇を求められている中国が、米の量的緩和策を批判するのは当然だが、最近は中国と協同歩調を組むことが多いブラジルも同様に批判。G20では、メルケル独首相も、G20を前にした11月10日の記者会見で「誰もバブルを望んでいない」と、FRB量的緩和策を批判した。
 ドイツが反発したもう一つの理由は、アメリカが「資源輸出国を除き経常収支GDP比率を2015年までに±4%以内に削減すべき」との数値目標の導入を提唱。10年10月に発表されたIMF見通しによれば、該当するG20の経常黒字国は、中国・ドイツ。ドイツはユーロ安を追い風にして輸出が好調で、空前の好景気に沸いている。それにけちをつける米国に対し、ドイツが不満を持つのは当然だろう。
 ガイトナーは10月20日に「ドルは対ユーロ円でこれ以上下がる必要はない。ユーロと円はほぼ整合的な水準」と談話。中国と日欧の切り離しを図ったのだが、QE2で全てがご破算になったと言えるだろう。
 日経はこの米提案を「変化球」と表現している。中国に正面から人民元引上げを言っても動かないなら、別の手で攻めようということだが、反らしすぎて、ドイツの逆鱗に触れたということだろう。ガイトナーはG20に向かう政府専用機の機中で、このアイデア自画自賛していたというが、見通しの甘さを反省すべきだろう。 

米国にはうんざり

 かつては、米国のわがままに、世界がつきあってきた。しかしその間米国はやりたい放題をしてきた。諸外国もいい加減うんざりしている。
 そもそも日本経済の長期デフレを招いたのは、米国主導による85年のプラザ合意が原因である(反対論はある)。双子の赤字に苦しむアメリカがドルを安くしてくれと他の先進国に要求したのが始まり。標的は黒字国の日独だった。アメリカの景気が悪くなれば日本だって、ドイツだって困るでしょう、という訳で、日独も仕方なく従った。このため円は対ドルで240円から120円ほどに2年間で倍の円高になった。このため、企業は東南アジアに生産拠点を移し、日本は産業の空洞化が進んだ。日本も途中で金融緩和をやめたかったが、米国の関係を壊したくないため、金融緩和を続け、ついにはバブル崩壊で大打撃を受けた。(ドイツは一足先に逃げている)
 これだけ世界に世話になりながら、米国の貿易赤字は続いた。それで米国はITバブルを起こしたが、すぐに崩壊。今度は得意の金融業で世界から金をかき集め、サブプライムなど、有毒資産を世界中にばらまいたが、これも崩壊した。結局、アメリカがやってきたことは、自国の都合で、世界経済をメチャクチャにしただけのことだった。
 さらにとどめはイラク戦争大量破壊兵器だの、嘘八百並べて、世界を戦争にイラク戦争に巻き込み、イラクの石油を独り占めしようとした。
 これだけ悪行を重ねれば、愛想を尽かされない方がおかしい。

米国が無くてもやっていける。

 今の世界経済を支えているのは、新興国。米国は図体のデカイお荷物でしかない。世界が米国に期待しているのは、世界経済のエンジンではない。足をひっぱらないでほしいだけだ。QE2は、そんな世界の期待(?)を裏切り、思い切り足をひっぱったため、総スカンになってしまったのである。