人民元弾力化は銀行救済も理由か

人民元弾力化

 6月19日、中国政府は人民元の弾力化を発表。それまで1ドル=6.83元に固定されていたものを、管理通貨バスケット制度の下、元相場の上昇も許容する姿勢を示した。
 中国は、05年7月に固定相場から通貨バスケット制度を採用した。人民元は海外での自由の流通がないため、中国政府が数種類の通貨の相場を基準に人民元の基準値を決定。それを市場に示すことで、為替相場を操作してきた。当初は人民元相場も上昇していたが、リーマン・ショックを境に1ドル=6.83元に固定されてしまっていた。
 弾力化により現在1ドル=6.765元程度にまで上がっているが、上昇率は1%程度で、4割は低く抑えられているという米議会の認識からすると、まだまだ不十分だということになろう。

人民元弾力化の理由

 中国が人民元の弾力化に踏み切った(というにはあまりに低く抑えられているが)理由として、中国政府自身が経済を外需主導から内需主動に切り替えていこうという政策転換のあらわれというのが一般的な見方だろう。
 また、政府の為替相場介入が人民元過剰流動性をもたらし、元相場の将来の上昇を見越しての海外からのホットマネー(熱銭)の流入を抑えようと、いう政策目的があるとも言われている。最近は消費者物価指数が3%を超える上昇を見せており、インフレ抑制の必要性が増してきているという状況もある。
人民元基軸通貨化という、国家戦略に向けての一手ということもあるだろう。

中国農業銀行のIPO成功目的もあるのか

 中国四大商業銀行の一角、中国農業銀行が7月15日香港市場に上場。IPO=新規株式公開による資金調達額は最大221億ドル(約2兆円)を目指した。人民元の弾力化はひいては将来の人民銀上昇期待を呼び、IPOを側面で援護することになったはずだ。弾力化の公表はこうしたいともひょっとしてあったのではないか。

地方政府向け融資不良債権

 こうした中で飛び込んできたニュースが「中国の商業銀行が地方政府系企業に対して実施した融資のうち、借り手の返済能力や担保などに問題がある債権が約1兆5400億元(約19兆5000億円)にのぼることが明らかになった。」(8月5日付日経)というものだ。中国経済紙「中華工商時報」が6月2日付で、UBS証券の首席中国経済アナリスト・汪涛氏の見込みを紹介。同氏によると、中国の地方債務はすでに10万億元(133兆円)に達しているという。この原因となったのは08年11月に中国政府が発表した4兆元の景気対策である。中央政府の負担はその3分の1、残りは地方政府の負担となった。地方政府は第3セクターを作って、銀行に融資させ、それを元手に公共投資を行った。地方政府としては、借金の大義名分が出来、おまけにそうした借金を共産党幹部経営の企業や、国営企業にばらまいて、要りもしない公共工事を大量に扱ったのである。こうしてできた借金が不良債権化したということだ。
 中国農業銀行もIPOが終わった後のことで、損をしたのは投資家だけだ。