米金融規制改革法成立秒読み

金融規制改革法案、上院可決

 米上院は7月15日、1930年代に銀行と証券業務の分離を定めたグラス・スティーガル法以来の抜本的改革となる金融規制改革法案を賛成多数で可決。近くオバマ大統領の署名を経て成立する。
 金融規制改革法案は、作成を主導した民主党のドッド上院銀行委員会委員長、フランク下院金融サービス委員長の名前をとって「ドッド・フランク法」と呼ばれる。
 金融危機の再発防止のため、大規模金融機関の監督強化、公的資金を注ぎ込まずに行う破綻処理ルール、高リスク取引の制限などを柱としており、この法案の本質はオバマ大統領の「新たなリーマン・ブラザーズAIGもない」という宣言に表れている。
 米国は中間選挙を迎える。銀行の高リスク経営による資産悪化のツケを税金で賄わされたという批判に対して、オバマとしてはどうしても規制強化を国民にアピール必要があった。これはオバマの政治的勝利と言えよう。

法案の内容

 法案は何と2300ページにも及ぶ大部なもので、金融関係者もまだこの法案が銀行業務にどの程度影響を及ぼすことになるか勉強中というところだろう。
 法案は、銀行の自己勘定による高リスク取引を制限する「ボルカールール」、デリバティブ市場の規制、住宅ローンなど金融商品の消費者保護など、投資銀行のトレーダーから地域金融機関のローン業務まで、金融界に広範囲な規制の網をかぶせるとしている。
 法案が成立すれば、少なくとも11の連邦機関による243の新規則の制定が必要になる。 ただ、具体的なルールの作成と運用は、財務省FRB、SEC、商品先物取引委員会(CFTC)などの各金融当局に委ねられている。そのため、今後金融界のロビー活動は熾烈を極めよう。その過程の中で、取引制限は骨抜きになる可能性も指摘されている。
 国際的な規制の本格的な調整もこれからだ。

銀行税の実質的導入

 ウォールストリート・ジャーナルは、「ビジネスの大部分に変化を迫る」ことになり、「収益への影響は避けられない」とウォール街の経営トップも悲鳴を上げている、としている。ただ100%本気にしてはならない。ここから先の論調は「だからロビー活動により、法案を骨抜きにすべきだ」となるだろうからだ。
 同紙が特に問題にしているのが銀行税。国会議員の中に、銀行税が撤回されたから賛成した議員がいるが、撤回されたのではなく、課税のタイミングと方法が変更されただけだ、と同紙は指摘している。
 すなわちこういういことだ。最終法案では、将来的な救済措置の実施に備えて、直ちに大手金融機関に課税するのではなく、まず救済を優先できるようにし、その後で他の金融機関に課税することで救済費用を回収することになっている。この費用は、連邦預金保険公社(FDIC)が徴収することになるため、法案の反対者でさえも、それを保険制度の一部ととらえているが、違う。同法案では、例えば、Aという会社が直近の救済費用を支払ったとしても、Aが将来倒産した場合に、FDICがAの債権者を救済してくれるという保証は何もない。同法案では、FDICが自らの裁量で債権者を救う、救わないを決めるのだから、名前は保険でも税金と同じということだ。