木村剛逮捕が意味するもの

木村剛逮捕

日本振興銀行木村剛前会長が警視庁に逮捕された。不都合な電子メールを削除し、金融庁の検査を妨害したことが、銀行法違反に当たるとの容疑だ。ほかにも社長ら4人が逮捕されているが、木村だけが否認していると言う。

日本振興銀行の表向きの理念

 日本振興銀行は、木村が大株主で、かつ会長職を務めていた。銀行には珍しいオーナー企業で、木村銀行とも揶揄された。
 木村が振興銀を作ったときの経緯は、自著の「金融維新」に詳しい。彼は「日本の銀行は、担保や保証があるかないかだけが融資の基準になっていて、事業の良しあしを見て決めていない。担保は無くても素晴らしいビジネスモデルを持っている会社に融資するような銀行を作りたい」と理想を語っていた。
 彼は商工ローンに対しても、ハイリスク・ハイリターンゆえに、融資審査のプロではなく、回収のプロが社長をやっていると一刀両断に切り捨てた。彼は「商工ローンはハイリスク・ハイリターン。銀行はローリスク・ローリターン。その中間のミドルリスク・ミドルリターンの銀行を作りたい」とも言っていた。

実態はただの商工ローン

 しかし、私は彼が本に書いた理想を全く信用していない。彼が作った日本振興銀行の実態は商工ローンそのもの。融資のプロを集めるのでなく、消費者金融出身の回収のプロをかき集めて社員にした。SFCGでさえ、一日遅れても、支払を猶予するのに、日本振興銀行は一日でも遅れれば、売掛先に債権譲渡通知を一斉発送。そうなれば、企業は、売掛金という運転資金を失い、さらには得意先も失い、つぶれるしかない。SFCG以下の銀行だった。
 木村の頭には、金もうけしかない。銀行をやれば預金という形で殆ど無利子に近いコストで貸付資金を集められる。だから貸付利子を安くしても、利益が上がる。そうすれば、今までSFCGとかロプロとかの商工ローンに借りに行っていた連中が一気に振興銀行に押し掛けてくる。こうした絵を描いていたのが木村という男だ。

4年目に黒字という目標

 木村は4年目で黒字という目標を立てていた。木村の考えでは目標は簡単に集められる筈であった。低金利時代だから、1%の利息で、預金はバンバン集まる。その分、貸出利率も18%ほどにできるから、今まで商工ローンに頼っていた中小企業が競って借りに来る。自分たちはその中の優良顧客先を選別すればいい。
 実際どうだったか。振興銀行は普通預金は扱わず、1%の利息の定期預金のみ。他の銀行より利率はいいから、開業半年で294億円の定期預金が集まった。ここまでは目論見通りだったが、貸出先が振るわなかった。貸出は半期で40億円程度、当初中間決算では12億5,000万の赤字。さらに、半年の営業で2億円の不良債権が発生。預貸率は14%でしかなく、大半の預金は遊んでいる状態。
 当初の経営陣は1割の株を持つ大株主木村の一声で、3年目でくびになった。以後木村が会長として君臨、直接経営にタッチすることになった。木村が目をつけたのは、平成18年の最高裁判決でグレーゾーン金利が否定されて意気消沈した商工ローン業者だった。NISグループ(旧ニッシン)、SFCG等から貸出債権の譲渡を受け、売上げを増大させ、4年目の黒字を果たした。しかし、これが今回のつまずきのきっかけとなった。
 振興銀行が商工ローンの債権を買い取ることには、当然非難の声が上がった。木村は動じなかったのではないか。彼に理想は無い。あるのは金銭欲だけだろうからだ。