評価が分かれる中国経済

中国経済の不安要素

 中国経済はいくつかの不安要素を抱えている。08年11月からの4兆元規模の景気対策、窓口指導=行政指導による融資残高の拡大、人民銀行によるドル買上による人民元の流通増、海外投資マネーの流入により、この1年半で200兆円近いキャッシュが市場に流れている。このため中国の経済成長は減速することなく続いているのだが、いつまでも続くものではない。行き過ぎればインフレになる。しかし、今引き締めを図ると国内経済も減速しかねない。最悪、スタグフレーションを招きかねない。

不安要素

 今後の中国経済の不安要素として、次のものがある。

  1. 投資偏重の経済成長:中国政府の財政赤字は日本の財政赤字に比べてもはるかにましである。それでも限界がある。積極財政をとめた瞬間のリバウンドが恐ろしい。ちなみに4兆元の景気対策は今年度で終了する。
  2. 地方第三セクターへの融資の焦げ付き:中国では財源が中央にとられてしまっていて、地方政府の財政は余裕がない。それなのに、中央政府が4兆元の景気対策を打ちだし、その3分の2は地方が負担しなければならない。地方政府は地方債を発行できないから、第三セクターを作って、そこが銀行から金を借り、市場から投資マネーを吸収し、公共工事をやりまくった。やりまくり過ぎて投資の対象がなくなると、橋を壊して橋を造るような公共工事まで行った。しかしそんな公共投資で黒字収支を得られる訳がない。これに対する銀行融資が不良債権化する可能性がある。
  3. 資産インフレの懸念:これだけの金を民間で吸収しきれないし、公共投資で消化するにも限界がある。当然行き着く先は不動産投資に株投資だ。そのため不動産価格が急上昇。庶民が不動産を買えなくなり、政府批判につながる危険もあるため、政府は不動産融資規制を行っているし、一部では固定資産税導入の動きもある。5月の不動産販売額は前月比25%減となった。
  4. 労賃の急上昇:労働契約法が制定され、中国人労働者の権利意識は強まっている。しかも地方での公共工事が労働力を吸い上げているため、沿海部の労働力が不足している。このため人件費が急増。このためコスト競争力が低下している。
  5. 在庫の急増:政府が金をばらまいて、金を使え使えの大号令に乗っかったのが、国営企業である。煽る方も役人、煽られる方も準役人となると、所詮人の金。バンバン使って、自分も私腹を肥やそうということになる。このため需給バランスを無視した設備投資、生産拡大が行われ、在庫が積みあがっている。工業生産の伸びは鈍化し、全国の鋼材価格も7週間連続でダウンしている。
  6. 欧州危機:中国製品の最大の輸出先は欧州だ。欧州の景気が悪化すれば、輸出企業が大きな打撃を受ける。それだけではない。欧州危機の影響で対ユーロで人民元が高くなっている。人民元は事実上のドルペッグ制をとっているため、ユーロ安は進む一方だ。今までの中国経済の成長エンジンは投資と輸出だったが、投資も減速、さらに輸出も減速となれば中国経済は大きなダメージを受けることになる。
輸出の急増

 しかし、意外にも輸出が急伸している。前年同月比の市場予測は30%前半に集中していたが、国家統計局の発表を信じれば48.5%の増加を示している。特に米国向けの輸出が増えている(米国経済の成長も国内生産を国外生産に置き換えた結果ということか)。今回の輸出額には欧州危機はまだ織り込まれていない。これが織り込まれるとなると、どうなるのか。