ユーロ防衛の行方

EU金融安定化プログラム

欧州連合(EU)財務相は10日、ギリシャ債務危機の波及を防ぐにため5000億ユーロ規模の緊急措置を講じることで合意した。会合は、9日午後から10日未明まで及んだ。時間は無い。10日未明はヨーロッパでは日曜日だが、早くしないと、時差の関係で、あと数時間でアジア市場が開いてしまう。土壇場ギリギリで決定だった。
ギリシャと同様の期間3年の救済策が必要になれば、ポルトガルに1000億ユーロ、スペインに2800億ユーロなどという数字も出ており、5000億ユーロというのも、現実の重みを持った数字だ。緊急措置には国際通貨基金IMF)も参加するといい、IMFの寄与は2200億ユーロ程度となる可能性があるという。
ただ、まだ具体的にどこの国にいくらということまで決まった訳ではなく、まだ見せ金の状態だ。今後市場はEUの本気度を探る展開になるだろう。

ギリギリだったタイミング

一時期は沈静化していたが、EUの足並みの乱れを見て、市場が売りを浴びせた結果、ユーロ、ユーロ株とも続落を続け、ギリシャ国債金利も上昇した。危機はそれだけではなかった。銀行間金利の指標として取り上げられるLIBORの急上昇だ。「ライボー」と読み、ロンドン・インターバンク・オファード・レートの略。毎日午前11時点の平均的レートを英国銀行協会が集計し、発表している。ここ1カ月間上昇を続けていたが、5月3日から0.01%ずつ上昇し、5月6日の0.37359から7日の0.42813に急上昇した。影響は東京にも及んでき始めた。ドルLIBORの上昇が加速し、円LIBORやTIBOR(Tは東京のT。東京銀行金利の意味であり、「タイボー」と読む)も上昇に転じる恐れが出てきていた。ギリシャ危機が、金融危機にまで変わった瞬間だった。もし10日未明に結論が出ていなければ、大変なことになったかもしれない。

欧州各国中銀も大規模な国債買い入れ

 さらに、ECB主導で欧州の各中央銀行が、ギリシャ、スペインなど財政が厳しい国の国債を積極的に買い入れているという。国債の買い入れは、日銀もやっているし、FRBイングランド銀行もやっている。しかし、それは量的緩和のためであり、国債の買い支えではない。今欧州の中央銀行がしようとしているのは、ギリシャ国債を買い支えて、金利上昇を抑えようというのだ。国債の買い支えは、財政ファイナンスとも言われ、中央銀行にとって禁忌とされている。日本の財政法5条が「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、、てはならない。」として、日銀に国債の引受を禁じているのはその趣旨からだ。ギリシャは厳しい監視を受けることになるので、国債の買い取りが、国債の増発を招くという事態はないだろうが、中央銀行国債暴落のリスクを抱えることになる。

今後はどうか

 サブプライム証券化され、様々な金融商品の構成要素となっていたため、どこの銀行がどれだけのサブプライムリスクを負っているかが分からず、銀行間で疑心暗鬼となり、結果銀行間金利が急上昇したという事情があった。国債の場合、保有状況は比較的把握しやすいだろうから、サブプライムほどの激震はないだろう。しかし、ソブリンリスクという、国の財政全体に係わるものだけに、長期の持病のようにじわじわと効いてくるかもしれない。ちなみにLIBORであるが、高止まりしたままである。
 http://quotes.jp/libor/?c=usd

10.5.15新聞報道から

 14日欧州株式相場は軒並み大幅下落した。特にスペイン株は7%、ギリシャ、イタリアも3〜5%、前日比で下落した。スペインのサンタンデール銀行は一時期10%下落した。
 これら3国に加え、ポルトガルアイルランドはPIIGSと呼ばれ、財政赤字が際立っている。このため、緊縮財政を強いられ、その間は景気は低迷せざるを得ない。これらの国に、現在成長エンジンは見当たらない。とすれば、財政の緊縮が税収の減少を生むという逆スパイラルを生みかねない。市場も景気低迷が長く続くとみているのであろう。

サルコジメルケルを恫喝

 サルコジが7日の欧州連合首脳会議で、ギリシャ支援を渋るドイツメルケル首相に業を煮やし、机を拳で叩きながら「ギリシャを救うためには全ての国がそれぞれの手法で積極的に参加しなければならない。そうでなければ仏はユーロに対する態度を再考せざるを得ない」と、メルケルを恫喝し、メルケルはそれを渋い顔で聞いていたという。しかしサルコジも欧州の大義という高踏な立場からこう言った訳ではない。ギリシャへの貸付のトップがフランスの銀行なので、自国の利益を守っただけだ。
 今回のギリシャ危機の火をつけたのは、当のギリシャの前政権だったが、ドイツのギリシャ支援に対する消極的態度は火に油を注いだに等しい。メルケルとしては、5月の地方選挙を控えていたため、「わが国民が汗水たらして得た金を、浪費していた国の救済には使わない」と、タカ派を気どらなければならなかったのだろう。しかし、そのメルケルの非協調的態度が、ギリシャ長期金利を押し上げ、救済コストをさらに押し上げ、ドイツ国民の財政負担をさらに増やしたのだから皮肉な話だ。