英国債のトリプルAは風前のともしび

英国の現状

英国は、12%近い財政赤字。2兆1000億ポンド=GDPの150%という公的債務をかかえ、さらに、9兆1000億ドル=GDPの423%という対外債務まで抱えている。これをどう解決していくかが、再大の課題だ。

英国経済、80,90年代は北海原油のお陰、00年代は資産バブルのお陰

英国経済は戦後不振を極め、1968年はIMFIMFからの融資も受けている。しかし、79年のサッチャー政権誕生とともに、英国経済は劇的に改善された。規制緩和と民営化など行政改革が改善の理由として挙げられ、小泉、竹中もイギリスに見習えと、ばかり規制緩和に走ったのは記憶に新しい。しかし、英国経済の復活は、北海油田の功績の方が大きい。75年から商業生産を開始した北海原油は、最盛時には英国に輸出の2割弱、財政の10数%の収入をもたらした。これによる国際収支の改善があったからこそ、金融の自由化も成功し、シティも復活したのである。
しかし、2000年には北海原油の生産も激減したが、ここでサッチャーの遺産が生きてくる。ロンドンは国際金融センターとして、米国と同様、世界から資金を集め、空前の好景気を生んだのである。今となっては、このブームが完全な幻想で、単に資産価格バブルに踊らされただけと分かっている。それも、英国内貯蓄が低水準のため、要は外国からの投資を呼び込んでの、資産膨張だった。今や、夢破れ、海外からの借金が英国を苦しめている。

英国の公共債務

まず英国の公共債務であるが、英国政府は7610億ポンド、GDPの54%に過ぎないとしているが、これはB/Sに載っている数字だけを合計したものに過ぎない。公共セクターの年金、公共事業への民間資金の投資(PFI)という簿外債務も加えれば、公共債務は2兆1000億ポンド=GDPPの150%になるのだ。
昨年、英政府はGDPの48%に相当する政府支出を行ったが、税収を含む歳入は36%分しかなかった。英国の財政赤字はGDPの12%に近く、PIIGSに入らないのが不思議なくらいだ。
英政府は、10年度のGDP成長率を3%と見込んでいる。しかし英国政府は、脱工業化、金融国家戦略を目指していたから、就業人口の2割が不動産、金融業といういびつさだ。しかし英国の銀行は、米銀にくらべて、不良資産処理が大幅に遅れ、基礎体力は無い。不動産も低調とあっては、成長エンジンを欠くなかで、はたして3%という成長率は可能かといえば、難しいと言わざるを得ないのではないか。

英国は欧州でも一番の債務国

2009年末の時点で、英国の対外債務は9兆1000億ドル。これはGDPの実に423%に相当する。ギリシャの162%、イタリアの132%、フランスの238%よりはるかに悪い。英国人1人あたりの対外債務は14万9000ドル。スペインの5万9000ドル、ギリシャの5万1000ドル、ポルトガルの4万7000ドルの3倍近い。
にもかかわらず、イギリス国債はトリプルAを保ってきた。財務省が、日本国債の格下げをする前に、イギリス国債の格下げをしろと文句を言うのも理解できなくない。イギリスがトリプルAを保ってこれたのには、3つの理由がある。第1に、英政府は2000億ポンドものお金を刷ってきた量的緩和による景気浮揚効果、第2に、総選挙が差し迫った中厳しい政策が取られることはないだろうが、総選挙後は財政再建に取り組むだろうという期待、第3に、過去2年にわたる英ポンドの大幅な下落により、輸出主導型の景気回復が実現するだろうという期待だ。

英国債トリプルAも風前の灯

しかし、既にここまで財政悪化をきたしては、第1の理由、量的緩和ももう息切れだ。総選挙も終わったので第2の理由も過去のものとなった。残るは、第3の輸出主導型の景気回復だが、これもパッとしない。イギリスの主張輸出相手国は欧州、米国で、その双方で72%を占めている。対中国は2%に過ぎない。要するに、輸出相手国も、英国同様消費が落ち込んでいるため、輸出が思うに伸びないのであろう。
参考:http://www.nejinews.co.jp/news/business/archive/eid3168.html