時間は金で買える

中国自動車メーカーによる二つの企業買収

露骨なタイトルだが、これは中国企業による買収の話である。最近中国企業の二つの買収の話が大きく報道された。
中国の自動車メーカー、比亜迪汽車(BYD)が、金型大手オギハラ(群馬県太田市)の国内4工場あるうちのひとつ、館林工場を買収することが3月27日、明らかになった。BYDは館林工場で生産するドアやフェンダーなどの金型を中国に持ち込み、生産ラインで活用する。中国人社員への技術継承も図り、国際的な競争力を高める。
中国の自動車メーカー、吉利汽車は3月28日、米自動車大手フォード・モーター傘下にあるスウェーデンの高級車ブランド「ボルボ」を18億ドル(約1700億円)で買収することでフォードと最終合意し、スウェーデンボルボ本社で正式に調印した。

電気自動車が進める自動車のパソコン化

自動車産業は、様々な技術の集積の産物であり、高性能化するに従い、巨大企業の独占支配の度合いを強めてきた。しかし、今自動車産業でスモール・ハンドレッドという言葉が聞かれる。小規模企業が今後どんどん自動車産業に参入し、メジャー企業で市場を独占できない時代になったのだ。背景は二つある。一つは電気自動車、一つは新興市場である。
電気自動車は、電池とモーターで動く。内燃機関が不要になり、内燃機関周りの複雑な部品も不要化する。それだけ、新興企業の参加障壁が低くなっているのだ。電気自動車はパソコン化しつつある。パソコンにおいてはモジュール化が進み、日本が素材を作り、台湾がモジュールを作り、中国がこれをパソコンとして組み立てるという国際水平分業が進んでいる。このモジュール化を発明したIBMは、却って自社の存在意義を失わせることになって、パソコン事業を中国企業レノボに譲渡した。電気自動車は車の構造を単純化し、パソコン化しかねない。
また新興国が自動車市場として大きなウェイトを占めてきている。新興市場では、高価な高機能製品より、安価な汎用品が求められている。日本のモノづくりの技術もそこでは過剰なぜいたく品としかみなされない。
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20081123/1227448761

金で開発のための時間を買う

それでも、数万点の部品でなる自動車を作るには、通常の工業製品より、製造上のノウハウがより重要であることは事実だが、BYDのように部品メーカーを買収したり、吉利汽車のように自動車生産設備を丸ごと買ってしまえば良いということになる。そうすれば、開発に余計な時間をかける必要はない。要するに、時間は金で買えるのだ。もちろん金で買った技術を、売上に結び付けられなければ、投下資本を回収できない。しかし、BYD、吉利汽車は、最大の自動車需要地、中国という市場を押さえている。

中国企業を軽く見るな

疑問に思うのは、なぜトヨタや日産が、ボルボを買わなかったかだ。確かに、既に技術は持っているのだから、敢えて買う必要もないし、ヨーロッパの高給取りの労働者を抱え、コストアップにはつながる。しかし、中国企業の手に渡れば、それで済まないダメージになって帰ってくるということは分かっていたはずだ。やはり、中国企業を軽く見ていたからだろう。

BYD株を買ったウォーレン・バフェット

しかし、世界はそう見ていない。BYDは元々携帯電話用の電池を作っていた会社で、電気自動車に対する参加障壁がもともと低い会社だ。この会社の10%の株を保有しているのが、ウォーレン・バフェット率いる投資会社ハサウェイだ。このバフェット、バリュー投資(利ざやを得るのではなく、長期保有することで利益を得るスタイルの投資)で知られ、リーマショック以前は世界1の富豪とも言われる超著名投資家だ。あのバフェットが買ったということで、世界中の投資家が注目している。