ギリシャ危機、EU支援方針、合意成立

EU、ギリシャ支援で合意成立

 3月25日ブリュッセルで、ギリシャ支援をめぐり、EU首脳会議が開催された。
 会議に先立ち、サルコジ仏大統領とメルケル独首相は、ギリシャ支援の枠組みで合意。「ユーロ圏各国がECBへの出資比率に基づいてギリシャに融資を提供。融資全体の半分以上を欧州が賄い、残りをIMFが負担する」というものだが、融資はあくまでもギリシャに他の選択肢がなくなった場合に限定されている。
 同日ユーロ圏16カ国首脳は、ドイツとフランスのこの提案を支持。ギリシャパパンドレウ首相は記者団に対して、緊急支援策について、「非常に満足している」と述べた。
 ECBトリシェ総裁は26日、これを受けて、「ユーロ圏の首脳が解決策を見出し、『必要に応じて断固とした協調的措置を講じる』との言葉を実行に移したことを喜ばしく思っている」と語り、ユーロ圏諸国によるギリシャ支援策に支持を表明した。おおまかには次のような仕組みだ。

  1. 支援の前提としてECBの承認と、ユーロ圏16カ国全員の同意が必要
  2. 支援の3分の2はユーロ圏各国が、3分の1はIMFが負担する。

まずECBと16カ国全員の同意という二重のハードルを設けられたことになるが、一番の強行派ドイツが拒否権を持ったに等しい。またIMFが融資をするとなると、IMFは援助と引き換えに苛烈な財政規律、自由化を求めてくる。いわゆるワシントン・コンセンサスというもので、社会民主主義的経済から、徹底した弱肉強食の自由主義的経済への転換を求められる。こうすればスペインやポルトガルも簡単には支援を求めないだろうという、ドイツの狙いが込められている。

合意に至るまでの混乱

 欧州がギリシャを支援するとして、その負担割合をどうするかと、なると、結局ECBへの出資比率に応じてということにならざるをえない。とすると、出資比率が高い独仏は巨額の支援を負担せざるをえなくなる。このため独仏、とくに選挙を控えている独が強硬に反対していた。独は、IMFが財政支援すべきだ、との主張を繰り返していた。
 これにかみついたのが欧州中銀=ECBだ。ECBのビニ・スマギ理事、3月24日独紙とのインタビューで、「ユーロは国際機関という外部からの支援がないと存続できない通貨というイメージを持たれるだろう」と語った。 また、トリシェECB総裁が、EU首脳会議直前の仏テレビのインタビューで「IMFが、ユーロ圏内政府の代わりに責任を果たすのであれば、それは明らかに非常に悪いことだ」と発言。それが25日、独仏合意の発表直後という最悪のタイミングで放映されたことから、合意が成立しないのではとの危惧が広まり、ユーロが大きく値を下げるという事態を招いた。
 ECBトリシェ総裁は、上記のとおり、26日、ユーロ圏諸国によるギリシャ支援策に支持を表明したが、決まったものを云々しても仕方ない、ユーロへの信任を維持しようというものだろう。

英国の立場

 英はポンド体制なのでこの合意には加わっていない。英は米と同様、欧米の社会民主的な政策からは常に距離を置いた立場をとっている。英は、EUには加入しているが、ユーロは採用していない。英は大陸諸国のことは信用が置けないと考えている。今回のギリシャ危機のようなことが起こることも当然予想した上で、距離を置いていたに違いない。実際今回のギリシャ危機について、英マスコミは「だからユーロに入らなくて正解だった」といった論調が多いという。
 60年代初頭、英国が最初にEEC(EUの前身)加盟を希望した際、ドゴール仏大統領が「英国は(欧州にも影響力を行使しようとする米国が差し向けた)トロイの木馬だ。」と反対したという(発言の主がドゴールというところを割り引くべきかもしれないが)。英国は加盟国を拡大し、経済圏を拡大することに熱心だったが、その結果起きた危機からは遠いところにいる。
 ギリシャばかりか、ユーロ圏諸国は、ギリシャ危機の一因がCDSという金融商品にあると考えている。ギリシャ国債CDS値が急上昇したことが、今回の危機の大きな原因となっていると考えているからだ。そのため、今後の金融規制の在り方についても、大陸諸国はCDSの空売規制等を主張している。こうしたCDSはロンドン、ニューヨークを中心として取引(市場外取引)されるため、CDSに対する反感は、英米に対する反感につながる。

EU国債をめぐる議論

  今回のギリシャ危機の支援スキームの議論の中で「ユーロ圏全体でまとめて国債を発行したらどうだろうか」という考えもあったが、ドイツが強硬に反対した。ユーロ圏で国債を発行した場合、それは信用度が低い国のプレミアムも含むことになるため、ドイツ単独の国債に比べ利払い費が高くなるからだ。金融政策は統一されているが、財政政策は各国でばらばらという、EUの弱点がここにも表れている。

4月8日

 同日、ギリシャ10年物国債の利回りが一時7.5%にまで上昇した。ドイツ国債とのスプレッドは4.5%。中央銀行の発表では、ギリシャ市中銀行から10年1月、2月で80億ユーロが引き出されている、とのこと。
 欧州中銀は同日の理事会で引き続き、トリプルBマイナスの格付の債権を担保にした資金供給を継続することになった。ECBが最低でも、シングルAマイナスでないと受け付けないようにするとの観測が市場に流れ「ギリシャ国債の格付けが格下げになれば、ECBの担保とならなくなり、ギリシャの銀行が資金難に陥る」との危惧もあったため、ECBのこの決定はギリシャに対する支援メッセージと受け取らている。

4月10日

 9日にはフィッチがギリシャの長期信用格付けをトリプルBプラスからトリプルBマイナスに引き下げた。投機的水準の一歩手前に当たるギリギリの水準だ。債券市場ではギリシャ国債2年物の利回りが一時約8%に達し、10年物の利回りを上回った。ギリシャは13日に国債を発行する予定のため、消化できるかどうか注目が集まっている。(10.9.10追加)

4月12日

 ギリシャに対してユーロ圏各国が最大300億ユーロの支援で合意し、焦点はIMFからの支援の行方に移った。IMFは12日、ギリシャ欧州中央銀行(ECB)などと緊急協議を開始した。
 ドイツはIMF支援に大歓迎だが、サルコジ仏大統領は、反対だという。米国が実質支配しているIMFに、支援の主導権を握られることに不快感を持っているからだ。
 ECBのトリシェ総裁も、賛成したくないようだ。IMFがECBの金融政策に介入してくるのを恐れているらしい。(10.4.12追加)

ギリシャ政府の粉飾決算の背後にGSの指南

 また、英紙フィナンシャル・タイムズによると、ゴールドマン・サックスは、05年には為替スワップギリシャの銀行最大手ナショナル・バンク・オブ・ギリシャに移転し、同銀が簿外の運用会社を設立してスワップを処理しやすいよう証券化し、財政赤字の隠ぺいに協力したという。(10.4.12追加)
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/100218/erp1002182021004-n2.htm

IMF支援協議へ

 IMFストロスカーン専務理事は4月15日、ギリシャ側から支援要請を受けることを想定し、その上で、19日、ギリシャ政府と財政赤字の削減策などを話し合うことになった。

5月5日追加

 ギリシャ国債10年物の利回りは9%台半ばで、ドイツ国債を基準とした場合の上乗せ利率は6%強と、以前高止まりしている。ユーロも1ユーロ=1.31ドルを割り込み、1年半ぶりの安値になっている。
 欧州が域内の問題を自己解決できないとみなされ、ユーロを買っていた投機資金が流出したということらしい。PIIGSのうちのスペイン、ポルトガル株価指数も大幅に下落している。