オバマの輸出倍増j計画

オバマの輸出倍増計画

 オバマ米大統領は3月11日、今後5年間で輸出を倍増し200万人の雇用を創出する「国家輸出戦略」の概要を発表した。「輸出促進閣僚会議」を創設し政府を挙げて輸出を支援する一方、企業経営者らでつくる「大統領輸出評議会」で輸出拡大策を議論し、官民の協力体制も強化するというのだが、多くの人が吹いてしまったのではないか。
 米国の輸出額は100兆円、現在でも日本の約2倍あるが、それを200兆円にしようというのだ。どこの先進国も内需が伸びず、新興国で稼ぐしかないと必死になっているのに、どうしてアメリカだけそんなに輸出額を増やせるというのか。
 確かにドル安がどんどん進み、世界がリーマンショック前のように好景気に沸けば、オバマの夢が実現する可能性が多少はあるかもしれない。しかし、ギリシャ危機が南欧諸国に広がるかも、と戦々恐々としているEU、資産バブルで金融緩和を抑えざるを得ない中国と見て行くと、好景気が戻ってくる要素はないし、対ユーロで見る限りドル高基調が続きそうだ。

ある学者からの反論

 ダニエル・ドレズナー(米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院教授、この大学院は日本では有名でないが、明石康谷内正太郎森本敏といった錚々たる顔ぶれが出身者に連なっている)さんが、ニューズウィークのHPでいいことを言っている。
 では、オバマの国家輸出戦略にはどのような内容が盛り込まれているのか。11日の演説の中身を見てみよう。
「第1に、自社の製品を輸出するために後押しを必要とする企業、とりわけ中小の企業に対する融資を大幅に拡大します。」
 百歩譲ってこの政策が大きな効果を上げ、中小企業の輸出拡大につながるとしても(実際はありえないが)、輸出倍増という目標の達成には近づかない。アメリカの輸出のおよそ7割は、大企業が占めているからだ。
アメリカ合衆国の政府は、企業とそこで働く人たちの力になります。アメリカの勤労者と企業のために、私自身が国外で強力に粘り強く売り込みをしていくつもりです。政権をあげて、その努力を行います。」
 オバマが思い描いているのは、次のようなシーンだろうか。
 舞台は、マレーシアのどこかの小さな工場。工場長と現場責任者が組み立てラインをのぞき込んでいる。
現場責任者「もう少しマシな部品があれば、もっといい製品をつくれるのですが」
工場長「どこかから輸入してもいいな。ベトナム、台湾、韓国、日本......あたりかな」
♪トランペットの音が次第に大きくなり、オバマ大統領が次世代型スクーターのセグウェイに乗って登場する。
オバマ大統領「アメリカ製品の購入は検討しましたか?」
オバマが退出する。工場長と現場責任者は2人して、自分の頭を手でぴしゃりと叩く。
工場長「忘れてた! 世界最大の経済大国から輸入することを思いつかなかったなんて、信じられないな!」
現場責任者 「アメリカでものをつくっていると思ってもいなかったように見えちゃいますね!」
工場長 「教えてくれてありがとう、オバマ大統領!」
 こんなことが世界の至る所で繰り広げられると思っているとすれば、あまりに楽観的だ。
http://newsweekjapan.jp/stories/business/2010/03/post-1089.php

英フィナンシャルタイムズも

 13日付英フィナンシャルタイムズも言う。
 「輸出を異常なペースで増やし、5年で倍増させるという空想的な目標の設定は十分に有害だ。貿易関連官僚組織の小規模な再編成を有意義な提言とするのは馬鹿げている。」

オバマの狙い

 オバマの狙いは、「中国を為替操作国に指定しろ」「報復関税を実施しろ」という議会の大合唱に対するけん制だろう。「そんな過激なこと言わないで。中国はうちの国債を買ってくれるお得意さんなんだから。俺だって輸出を伸ばすいいアイデア持ってるんだから。俺の話も聞いてよ」といったところだろう。