ギリシャ危機とトービン税

トービン税実施への動き

 IMFが4月にまとめる金融規制改革に関する報告書で、金融取引税=トービン税の検討が盛り込まれることになったらしい。IMFのこの提言が、6月のG20・G8サミットに反映される可能性もある。トービン税とは、この税を考えた経済学者の名前に由来する。低率の税率を国際的な金融取引に課税するというもので、為替に低率の税金を課税することで金融投機を抑制しつつ、税収を貧困対策や地球温暖化対策に使用するものとして考えられてきた。
 しかしIMFトービン税を導入して、その税収を貧困対策などに充てようとは考えていない。こうした税金をプールして経営の悪化した金融機関への資本注入に備えようというのである。

トービン税が語られる背景

 こうした税が語られるのは、「銀行は自分の不始末は自分たちで始末しろ」という国際世論からだ。例えば、アメリカを見れば明らかだ。リーマンショックを発端とした金融危機にTARP(不良資産救済プログラム)として約7000億ドルが用意されたが、当初このTARPで住宅ローン証券を政府が買い取り、住宅ローンの支払猶予を行い、差押を防ぐ狙いがあった。しかし金融機関の危機が次々と発生し、3500億ドルは金融機関への公的注入に終わってしまった。おまけに公的資金の注入を受けた銀行では、役員が相変わらず多額の報酬を受け取っている。だから国民としては、「金融機関の危機対応に税金を使うな」ということになる。金融機関には、こういう前科があるから、今度金融危機が起こった時、政府からの援助が得られなくなる可能性がある。そもそも先進国政府自体が税収の激減、積極財政のため、財政赤字で再度金融危機が起こったら、IMFのことなんか構っていられない。そのため、トービン税を銀行からの取り立て、将来の危機に備えようというのだろう。
 さらにEUはギリシャ等のPIIGSと呼ばれる南欧諸国の、財政リスクにも、トービン税を使おうと考えているらしい。EU経済の牽引役のドイツがギリシャの財政支援について、強硬に反対しているため、EU加盟国によるギリシャ支援が暗礁に乗り上げる可能性も大きくなってきた。しかも、経済規模の小さいギリシャに対してでさえ財政支援を拒んでいるドイツが、今後スペイン等の財政危機が発生しても援助することは全く期待できない。となると、どこからか無理やりにでも財源を引っ張ってこなければならない。トービン税は良い鴨だ。

トービン税の税収規模

 国際援助団体のオックスファムは、米ドル、円、ユーロ、英ポンドの四つの通貨に0・005%の通貨取引税をかけると、年間330億ドルの税収が得られると試算している、という。どの政府も血眼になるはずだ。