トヨタを揺るがす内部文書が発覚

トヨタの内部文書が流出

 トヨタのある内部文書が問題になっている。この文書は、値段の安いフロアマットのリコールでお茶を濁すことで、米規制当局にトヨタ車の急加速問題の調査を終了するよう説得することに成功し、このお蔭で1億ドル超のコストを節減した、と自画自賛した内容の報告書である。09年7月にトヨタの米国スタッフが稲葉北米トヨタ社長向けに準備した、みられている
 24日に豊田章男社長が出頭を予定している米下院の委員会に、この文書が既に提出されており、豊田社長は厳しい追及を浴びそうだ。

判決という映画

 「訴訟」という米国映画がある。ジーンハックマン演ずる弁護士が、大手自動車企業の欠陥自動車が原因の死亡事故の遺族から、損賠賠償事件の依頼を受ける。この自動車は「ウィンカーを出して左折時に衝突すると、連鎖反応により燃料タンク内のガソリンに引火して爆発する」という恐るべき欠陥を有していた。
 遺族側は有力な証拠を見つけられず、訴訟は次第に不利になって行く。企業側が勝訴かと見られた終盤、ハックマンはその企業の元従業員を証人申請する。その証人は映画では「計算屋」。
 この「計算屋」(アクチュアリー=保険数理士の邦訳か)は、この欠陥車について、次のような計算をした。
 欠陥車台数、事故確率を試算し、これを基に敗訴件数を150件と想定。もしリコールしたら5千万ドルかかるが、事故が起きても賠償額は1件20万ドル程度、合計3千万ドルで済むと計算。その計算結果を聞いた自動車会社は、事故が起きても賠償金を払った方が、リコールするより安くつくと考え、リコールをしなかった。計算屋はこの内幕を証言した。この証言で、訴訟は一転、被害者側の勝訴となり、自動車企業は巨額の損害賠償金を払わされる。こういった映画だった。
 この映画は、フォード・ピント車事件という有名な事件を下敷きにしているが、フォードは人命を犠牲にしてリコールを怠ったとして、1億ドルの賠償金の支払いを命じられた。懲罰的損害賠償という米国の制度では、こうした巨額の賠償金が認められかねない。
 トヨタの内部文書が見つかったとの報道を聞いて、この映画「訴訟」ないし、フォード・ピント車事件を思い浮かべた人もいるのではないか。この映画が現実化しかねないおそれが十分にある。
 懲罰的賠償については1月23日付ブログを参照されたい(http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20100123/1264221486)。

陪審からの召喚状も

 トヨタの22日付発表によると、アクセルの不具合および「プリウス」のブレーキをめぐり、米ニューヨーク州連邦地裁の連邦大陪審から関連書類を提出するよう求める召喚状がトヨタ宛送られてきたという。召喚状は8日付(米現地時間)の発行という。
 大陪審なんて聞いたことがないという人が大半だと思う。陪審は起訴された人たちの裁判に関する制度だが、大陪審は、起訴するかどうかについて市民が参加する制度である。

トヨタの戦略ミス

 トヨタには戦略ミスがあったろう。トヨタは、米国側の期待を裏切って、旧GMとの合弁工場「NUMMI(ヌーミー)」生産を10年3月で打ち切った。トヨタは、赤字が出たための経費削減策の一環として、米議会対策のロビー予算も大幅に削ったという。その結果がこの大バッシングである。けちって安い保険に入った途端、事故が起きて、大損をしたといったところではないか。

トヨタが抱えるある訴訟

 今回の事件である訴訟ががぜん注目を集めるようになった。
 04年から07年までトヨタ・モーター・セールスUSAでSUV等の横転事故に絡む訴訟の代理人だったディミトリオス・ビラーという人物が、09年7月24日にロサンゼルス連邦地裁に起こした不当解雇を理由とする損害賠償訴訟だ。彼は、その中で、「実際あった訴訟で、トヨタの上司は横転事故に関する調査の阻止や引き延ばしを図り、ビラー氏に国内で販売する車のデザイン、機構、試験、評価などに関する電子書類の破棄を命じたこともあった」として、トヨタ自動車に損害賠償などを求めているという。同氏は、公聴会の直前に、米下院監督・政府改革委員会に、この訴訟に関する6000ページにも及ぶ文書を提出したという。[ロサンゼルス 26日 ロイター][USフロントライン2009年09月01日](10.2.28追加)※詳細は下のcam氏のコメントをご覧ください。

急加速を起こした問題の車をNHTSAが買い取り、徹底調査へ

 米道路交通安全局(NHTSA)は、2月23日の米下院公聴会で「意図せぬ加速」体験を証言したテネシー州在住のロンダ・スミスさんの「レクサスES350」を、現在の所有者から買い取って検証を行うと発表した。
 ロンダ・スミスさんは公聴会で、06年10月にこの車を運転中「車のコントロールが効かなくなり、一時は時速160キロまでスピードが出た」と証言していた。
 2月26日、ラフード米運輸長官は声明で「われわれは急加速の原因を突き止める作業を進めており、NHTSAはスミスさんの車を徹底的に調べる」と述べた。
 米上院商業科学運輸委員会が3月2日に開く公聴会では、この問題についての質疑が行われる見通しで、同公聴会にはNHTSAのストリックランド局長や、北米トヨタの稲葉社長、トヨタ自動車佐々木真一副社長(品質管理担当)のほか、初代「プリウス」の開発責任者である内山田竹志副社長も出席するという。
[ワシントン 26日 ロイター] 
※しかし、このスミスさんが持っていた車、別の所有者の下で3年間運転されていて、そこでは問題なかったようですね。(10.3.22)

その後の報道

 米ABCテレビがトヨタの急加速を誇張して再現していたことが発覚、下院の監視・政府改革委員会のタウンズ委員長がビラー弁護士の主張を誇張して引用した疑いも浮上している。(10.3.11日経)。
 トヨタが再現実験したところ、何本かの電子回路を直結でも市内が限り「意図しない急発進」は起こらないことが分かったという。
(10.3.22追加)

トヨタ報道は収まってきつつある

 その理由の一つはオバマの不人気である。オバマを攻撃する保守陣営はオバマがUAWの票欲しさに仕組んだと非難している。しかし、最大の理由はトヨタのこれまでの実績だろう。フォックスニュースの最新の世論調査では、トヨタ車のオーナーの92%は子供にもトヨタ車を運転させると回答している。「運転させない」と答えたのは7%に過ぎない、という。(10.5.7)