民主党の進める「取調べの全面可視化」

民主党の動き

 1月28日、民主党が「取調べの全面可視化を実現する議員連盟」を発足させた。同じ日、中井国家公安委員長も「捜査手法、取調べの高度化を図るための研究会」を設置した。

冤罪は密室で作られる

 捜査は警察署、検察庁の中で行われ、弁護士の立ち会いは許されない。こうした密室の中で、時に真意でない自白が求められ、自白したこと、ときには自白していないことまでが調書化され、それが裁判での最大の証拠になる。
 例えばやってもいないことを自白するように求められたとする。そうしたとき警察は「共犯の某が君がそこにいたと言っているんだ。実際その日のアリバイはないだろう。警察としては君がそこにいたと考えざるを得ない。だからそれを前提に調書を書かざるを得ない。君にも君の理屈があり、立場があるだろう。それは分かる。ただ、こちらにも理屈があるし、立場がある。それも分かってほしい。現状では、調書はこれまでの捜査結果を前提に書かざるを得ない。君が争うなら、裁判所でそう主張すればいいだろう。」などと言って、本人の記憶に反する調書を作り、本人にその調書に署名、指印を押させることもある。
 では、訴訟になったらどうなるか。警察は、自分が話したことを全部否定し、取り調べに当たった警官を証人尋問しても「取調べ中、共犯が君もそこにいたぞ、と言っていたぞ。実際のことを言ったらどうなんだ、と言いましたら、本人が自分もその場に立ち会ったことを認めましたので、その旨調書を作りました。」と証言するだろう。

取調べの可視化とは

 これを防ぐには「取調べの可視化」、すなわち、「取調べの様子をビデオに撮って、裁判の場でもどういう取調べが行われたかを、検証できるようにする」必要がある。しかも全過程を撮影する必要がある。理詰めの取調べで、逃げ道がないように思わせ、その上で警察の作ったストーリーを自白させる。そうした上で、「じゃあ今言ったことをもう一度言ってくれ。ビデオに撮るから」と言って、撮ったからといって、それは調書を証拠にとるのと殆ど変らない。
 ただ、この時期に、「取調べの可視化」を民主党が言うと、小沢の件での意趣返しかと言われる。ひょっとしたら、そういう狙いもあるかもしれない。しかし、結果的に良いことは、動機がどうあれ実現してほしい。民主党マニフェストでも捜査の可視化をうたっている。願わくは、「小沢さんを不起訴にしてくれたから、可視化の主張は引っ込めよう」などとしないことだ。

民主党マニフェスト

 「警察、検察等での被疑者取り調べの全過程についてビデオ録画等による可視化を図り、公正で透明性の高い刑事司法への改革を行います。最近、富山氷見事件や志布志事件足利事件などの冤罪事件が相次いで明らかになりましたが、最大の問題は密室での取り調べです。取り調べでの自白の強要による冤罪を防止するため、(1)裁判で自白の任意性について争いになった際に検証できるよう、取り調べの全過程を録音・録画することを捜査当局に義務付ける(2)刑事裁判での証拠開示の徹底を図るため、検察官手持ち証拠の一覧表の作成・開示を義務付ける――等を内容とする刑事訴訟法改正を実現します。」