トヨタ 懲罰的賠償の可能性も

トヨタ、米国で大量のリコール

 米国で、販売した主力乗用車のカムリやカローラなど約230万台について、アクセルペダルに不具合が発生する可能性があるとしてリコール(無料の回収・修理)に踏み切った。
 米国ではここ数年、トヨタ車のブレーキが利かず死傷事故が相次いでいることが重大な関心を呼んでいる。トヨタは当初、フロアマットがひっかかって、ブレーキが踏み込めなかったのが原因として、09年11月、フロアマットの回収でお茶を濁していた。しかし今回のリコールで、トヨタは、原因をアクセルペダルの内部機構のすり減りという、構造上の欠陥にあることを認めた。

トヨタの発表を信用しない米マスコミ

 しかし、米世論はトヨタのこうした弁解を信用していない。昨日のABCニュースでも、アクセルブレーキだけの問題ではないのでは、と疑問を呈していた。そこで紹介されていたのは、09年12月に起こった二つの事故。1つはクリスマス前の死傷事故。教会からの帰宅途中(アメリカ人が食いついてきそうなシチュエーション)、車が湖に猛スピードで突っ込み、乗っていた4人全員が死亡した。死人に口無しだが、現場には一切ブレーキ痕が残っていなかった。もう1つの交通事故は、時速60マイル(時速約100km)で走行中、ブレーキが突然効かなくなった。ギアをニュートラルにし(トヨタの暴走事故はこれで防げることをABCニュースが以前から報道していた)減速し、トヨタのサービスセンターに車を持ち込んだ。

懲罰的賠償の恐怖

 こういった事故がこれまでも続発していたため、トヨタ車の欠陥は、電気系統自体の欠陥ではないかと疑われている。そうなるとアクセルペダルの磨耗といった程度の欠陥では話がすまない。トヨタ車の安全神話は完全に崩壊しかねない。
さらに、怖いのは集団訴訟。仮に「トヨタ車に電子回路の欠陥があった」「トヨタはその可能性に気がついたが、販売への悪影響をおそれ、フロアマットのリコール、アクセルペダルのリコールで済ませた」という事実が立証されたとしたらどうなるか。そうなると、間違いなく巨額の懲罰的賠償を求められる。そうなった場合、何十億ドルという賠償額になる可能性も否定できない。

フォード・ピント事件

 これには前例がある。1978年のフォード・ピント事件だ。フォードが欠陥を発見したが、リコールをしないことを決定。フォードは、何分の1の確率で事故がおき、そうしたら賠償や訴訟にいくらかかるかを計算。この額とリコールにかかる額を比べると、リコールにかかる額が大きかったためにリコールせず、事故を放置したのだ。このため1億ドルの賠償が陪審員表決で認められた(裁判官が後に2000万ドルに減額)。この轍を踏むことにならないか心配だ。

追加

 トヨタは1月26日、アクセルペダルに不具合が生じる可能性があるとして米国でリコールした8車種の販売を一時停止することを明らかにした。(10.9.27追加)

追加

 米議会は28日、トヨタがアクセルペダルに不具合が生じる可能性があるとして米国で行ったリコールについて、同社と米道路交通安全局(NHTSA)から文書やその他の情報を求めた。
 下院エネルギー・商業委員会のワクスマン委員長は、トヨタの幹部とNHTSAに宛てた書簡の中で、2月25日に公聴会を開く意向を示した。同委員長によると、公聴会は、トヨタと規制当局がリコールされた自動車の安全性に関する消費者の苦情に「どれだけ迅速かつ効果的」に対応したかについて取り上げる。(ロイター1月28日)
 公聴会に向けて、ビッグスリーの拠点ミシガン州の議員が精力的に動き回っている。という。(MSN産経10.2.1)
 米国は今年中間選挙がある。このためこの時期こうしたスタンドプレーが目立つ。プア・ホワイト票が欲しい民主党によって、トヨタスケープゴートにされる可能性がある。

追補

 米主要紙が報じた米道路交通安全局(NHTSA)の集計によると、1999年以降報告されたトヨタ車の急加速にからむ苦情は2000件超。うちアクセルペダルの不具合に関する苦情は5%にすぎない。米紙ロサンゼルス・タイムズは、トヨタ側の説明について「すべての急加速事故を説明しているわけではない」と指摘する。
 「電気制御装置の欠陥」を疑う声は、米マスコミ全体に広がりつつある。ABCテレビもその一つだが、米紙ワシントン・ポストは、トヨタ車に、アクセルが加速した状態でもブレーキが優先されるシステムが搭載されていないことを背景として指摘した、という。(MSN産経10.2.1)

集団訴訟の可能性

 5月13日米カリフォルニア州でリコール訴訟の審理が始まった。これはトヨタのオーナーが「一連のリコールで保有するトヨタ車の価値が落ちたとする経済的損失」の賠償を求めた裁判だ。第1の焦点は集団訴訟が認められるかどうかだ。1人当たりの損害は、数百ドルだが、数百万人のオーナー全体に訴訟が広がれば数億ドル、トヨタは破滅だ。中国等全世界のオーナーも原告に加えるべきとの意見も出ているという(10.5.15日経)。
 セスナ社という会社をご存じだろうか。セスナ社といえば、プロペラ式の軽飛行機のトップメーカーで、かつては、軽飛行機全体がセスナと呼ばれていたほどだ。かつてコピー機が米メーカーの名前をとってゼロックスと呼ばれていたのと同じだ。1980年代、製造物責任訴訟が活発に行われるなか、小型プロペラ機が墜落する都度、訴訟が起こされ、多くの軽飛行機メーカ−の殆どが廃業した。セスナ社も軽飛行機の生産は商業上のメリットがなくなった。86年セスナ社は軽飛行機の生産を中止。従業員も8割近く解雇した。
 米国での訴訟リスクの怖さを物語る実例である。