中国の経済発展は本当か

中国輸出額で世界トップ、との報道だが

 「NIKKEI NETの1月11日付記事によれば、「中国税関総署は10日、2009年の輸出額が前年比16.0%減の1兆2016億6300万ドル(約111兆円)だったと発表した。世界的な金融危機の影響で1983年以来、26年ぶりの前年割れになった。ただ、ドルベースでの輸出額は08年まで世界首位だったドイツの09年実績(11月時点)を大幅に上回り、09年通年では中国が初めて世界一となる公算が大きい。」という。しかしこの数字をうのみにしていいのだろうか。

GDP成長率も水増し

 去年12月25日の中国国家統計局発表でも、08年1月発表のGDP30兆0670億円を、31兆4,045億元に上方修正となった。名目GDPの成長率は1月発表の9.0%から9.6%に上昇した。日経は「中国の名目GDPは2007年にドイツを抜いて米国、日本に次ぐ世界3位となっているが、これを機に日本との差が大きく縮まることも考えられそうだ。」とコメントしていたが、果たしてどれほど本当のことなのだろうか。GDPが新たに兆3,375億元、円でいえば18兆円も上がったのである。前の発表値からこんなに上方修正となった理由はどこにあるのか。この数字も鵜呑みにはできない。中国がGDPをこのように上方修正したのは初めてではない。08年4月にも07年の成長率を11.4%から11.9%に上方修正し、その後09年1月にはさらに13.0%にまで引き上げた。

中国経済好転に対する疑念

 ヘッジファンド・マネジャーで、ジム・チェイノスという人物がいる。彼を一躍有名にしたのが、00年から01年にかけて行ったエンロン株の空売りがある。当時優良企業と思われていたエンロンを、彼は粉飾決算の塊のような企業であると見抜き、エンロン株を80ドルで空売りを行って、後に2ドルで買い戻した。その彼が現在空売りのターゲットに置いているものの一つが中国株だ。彼は、中国の国家統計局が伝えるGDP数値はまったく正しくなく、信じるに値しないし、また「中国ほど過剰なまでの融資をしている国は他にない」との見解から、香港上場のH株や、世界規模で銅、セメント、鉄鋼石の生産業者を空売りしているというのである。
 私も、彼の見解に賛成だ。賛成するのは以下のような事情があるからだ。

  • 08年11月に政府が決定した、4兆元(57兆円)の景気刺激策が、中国の経済成長率を引き上げたというが、中国が行った景気刺激策はこれだけではない。09年の上半期だけで日本円で100兆円もの新規融資を行っている。このうちの50%ぐらいが土地や株式等の投機に流れ、残りの50%は国営企業の無駄な設備投資に回っているとされる。
  • 08年度の輸出額/名目GDPは、中国が32.7%で、日本が15.8%。貿易黒字額/名目GDPは、中国が6.8%、日本が0.4%(ちなみに米国はマイナス5.7%、完全に貿易赤字大国だ)。中国は貿易依存度が高く、中国の受ける影響は日本より大きいはず。ことに中国最大の輸出先米国の経済回復が本格化しない中で、中国の米国向け輸出が伸長するはずはない
  • 実質GDPの伸びほどには発電量は伸びていない。電力使用の90%が工業用と言われる中で、発電量の伸びがGDP以下の数値であるということは、ありえない。
  • 上海の分譲建物の販売価格は09年1〜10月の累計で前年比50%近い上昇率になったこと自体、実需が伸びないため不動産投資に回っているとしか考えられない。
  • 中国の公的な統計では自動車販売は伸びていっているが、ガソリンの消費量は実際には伸びていない。そのため、自動車販売台数も水増しされているのではという疑いがある。中国自動車工業協会が11日発表した09年の新車販売台数は1364万台だが、うち中国国産車が457万台と3割近くを占めている。うがった見方かもしれないが、中国国産車の販売台数を水増しすることで、1364万台という数字を作り出したということもあるのだろうか。
  • 中国では国営企業が横並びで増産投資に乗り出し、過剰生産に陥っている業種が多い。中国の資本形成率(固定資本形成額の対GDP比)は03年以降6年連続で40%を超えており、2008年には43.5%に達した。世界平均のほぼ2倍になる。
  • 09年11月5日の「2009年中国工業経済秋季情勢報告会」において、中国社会科学院の李揚副院長は、「第3四半期に国家統計局が監視計測を行った24業種のうち21業種において生産能力過剰があった。第1四半期は19業種であった」と述べた。
  • 中国国務院は9月下旬、生産過剰問題への対処方針を全国に通知した。同通知で鉄鋼、セメント、板ガラス、石炭化学、太陽電池の製造に使う多結晶シリコン、風力発電設備の6つを生産能力が過剰な業種に指定。ほかにアルミや造船なども過剰生産が深刻な業種として言及した。これらの業種が生産設備を増やす際には国の産業政策に合わない限り「金融機関は一律で融資をしてはならない」との規定を盛り込んだ。
  • 中国政府は、国有企業の経営効率を高めるため、EVAという経済的付加価値を表す指標をもとに、企業が投下した資本に見合う経済価値を生み出しているかを分析するという。国有資産監督委員会は、上海市や、深センの企業で、EVAを試験的に算出してきたが、国有企業は株や不動産に手を出しているところが多く、大半はEVAはマイナスだったという(10.1.9日経)
  • 中国の鉄鋼関係者によると、工場稼働率は60%未満と言うのが実態だといい、あるエコノミストは「鉄鋼業界の過剰生産能力は2億トン、1兆元が無駄な投資」と指摘しているという(10.1.9日経)
人件費増で中国も産業空洞化

 中国でも人件費が高騰している。中国の工業製品は、軽工業製品が多い。多くが労働集約型で、人件費コストが、製品の競争力を決定づける。最近は中国の人件費が高騰したため、中国企業が安い労働力を求めて、ミャンマー等に工場移転をしているという。
 政府も、生産品目を高付加価値製品にシフトして行くべきだとし、銀行融資もそうした企業に重点を置くように指示している。しかし、高付加価値製品の生産は軽工業と違い、労働力をさほど必要としない。そうなると中国の膨大な労働人口を養っていけるのかという問題がある。

人民元切り上げ論義

 しかしこのように貿易黒字を出しているとなると、人民元の切り上げの声は高まってくる。フランスのラガルド経済財務雇用相は1月7日、テレビのインタビューで「ユーロだけが苦しみ、これに乗じてドルと人民元が互いに利益を享受するような状況にユーロを置くことはできない」と述べ、2010─11年に主要国首脳が為替問題に取り組む必要があると訴えた。これは全世界が等しく思っていることだ。
 本来人民元は高騰してしかるべきだが、中国人民銀行は08年夏から元相場を1ドル=6.8元台に固定しているが、貿易黒字を死守するために、切り上げには断固応じない構えだ。人民元を切り上げれば、外需依存の高い中国経済は、失速しかねないからだ。